デジタル教科書の現在地、DiTTの動向

11月9日に、紀尾井フォーラム(東京・千代田区)にて、デジタル教科書教材協議会(DiTT)が、「デジタル教科書の位置づけはどうなる? 〜文科省検討会議について」と題したシンポジウムを開催した。会場は満員になり、DiTTに対する関心の高さが伺えた。

 

「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」について

 

ベネッセ教育総合研究所の新井健一理事長

ベネッセ教育総合研究所の新井健一理事長

パネリストとして、新井健一氏(株式会社ベネッセホールディングス ベネッセ教育総合研究所理事長)、堀田龍也氏(東北大学大学院情報科学研究科教授)、片岡靖氏(DiTT参与、一般社団法人日本教育情報化振興会)、中村伊知哉氏(DiTT専務理事、慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)、石戸奈々子氏(DiTT事務局長、NPO法人CANVAS理事長)が登壇。

東北大学大学院の堀田龍也教授

東北大学大学院の堀田龍也教授

まず、「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」の座長を務めている堀田氏から、同検討会議について説明があった。

「教科書や教材をデジタル化すれば、先生たちも学習を展開しやすくなり、授業の準備も楽になると思います。例えば反転授業を行うためには、今はコンテンツから作成しなくてはならないが、そういうものも事前に用意されていれば、もっと教育は充実すると思います」と堀田氏は言う。

そのためには、細かな概念を決め、その位置づけ、関連する教科書制度の専門的な検討を行う必要が生じる。また、関連する法律などは、多岐に渡り、これらをクリアにするには、何年もかかることが予想される。それらを具体的に、どのようにするべきかを検討しているのが、堀田氏が座長を務めている「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」である。

その検討会議は現在、ヒアリング調査を行っている段階で、2016年夏ごろに中間まとめを予定し、2016年度中に結論が出ることになっている。

 

デジタル版教科書の諸問題について

 

DiTT事務局長の石戸奈々子氏

DiTT事務局長の石戸奈々子氏

同検討会議(第4回)で配付された資料「『デジタル教科書』に関する検討の視点について」には、「デジタル教科書」ではなく「デジタル〝版〟教科書」と表記されている。これについて、堀田氏は、デジタル版教科書は、紙の教科書をデジタル化した教科書であり、この言葉を暫定的に取り入れることで、議論を円滑に進めようとしていると語り、教科書に焦点を絞っている。今回のディスカッションでも、「デジタル版教科書」について議論された。

現在の教科書の制度について、登壇者全員、よくできていると口を揃える。その中で、デジタルの方がわかりやすい、教えやすいということはもっとたくさんあるのではないかという意見や、それをうまく活用したものを作らなくてはならない、という意見も多くあった。

DiTT参与の片岡泰氏

DiTT参与の片岡泰氏

その検定については、「一体どこまでを検定の範囲にするのかを慎重に議論しないといけない」(堀田氏)、「デジタル教材とリンクして、拡張すればラーニングのデータを解析できる可能性を作る必要がある」(新井氏)、「紙の技術はそのまま使い、指導要領の内容が載っているかを検定し、コストを抑えながら、まずは、デジタル版を作っていく流れが必要」(片岡氏)、「音声や映像を使い、子どもたちが表現力や想像力を生かして、コミュニケーションできる教科書が望まれる。無償配布になるようにしたいが、現実的には難しい。そのためには、まずは導入できるようにするのが、現時点では最良なのでは」(中村氏)というような意見が述べられた。

そして、デジタル版教科書と周辺にある教材と結びつけるようなインターフェースを作る必要があり、メタデータ、履歴も含めた標準化を検討していく必要があるのではないかということが議論された。

会場の様子

満員となった会場、関心の高さがうかがえる。

また、現在の教科書制作の参入企業は数が限られている。しかし、デジタル版教科書には、参入障壁を設けるべきではないとの意見が多数あった。加えて、紙版の教科書がなければ、デジタル版教科書の制作ができないのではなく、デジタル版だけの制作も認めるべきだという意見も。その中で、堀田氏は、

「デジタル版のみの制作を認めていかないと、今後デジタルを生かした良い教科書は出てこないかもしれない。しかし、ある意味参入障壁を下げることになり、現在の教科書会社に対して、教科書の質の担保も含めて、調整する必要があるかもしれません」と語り、議論を深める必要性を語った。

 

DiTTのこれから

 

慶應義塾大学メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授

慶應義塾大学メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授

中村氏は語る。「DiTTの姿勢として、例えば予算400億円が450億円になりそうになったとしても、難しいからやめようという姿勢ではなく、だったら50億円増やす、あるいは(子どもたち未来のために)倍にしようというメッセージを発信しないといけないと思っています。つまり、子どもたちの教育環境をもっと豊かにするべきです」

今後、DiTTは、教育の情報化推進法案を作り、これを提示していこうと考えているそうだ。そして、2020年にどのように形にしていくかを議論しつつ、2030年、2045年を見据えた今後のプランを作っていきたいと考えている。理想を掲げつつ、現実的な落としどころを模索するDiTT。その動向に注目したい。

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