Category: 月刊私塾界本誌

TOP LEADER Interview|育英センター・片山学園 理事長 片山 浄見 氏

学習塾『育英センター』で培った成果のすべてを学校教育に生かす。

sIMG_6688片山学園は『育英センター』がつくった富山県初、唯一の私立中高一貫校。2005年4月に中学校、それから3年後の08年4月に高等学校が開校し、わずか10年足らずで東大・京大・医学部への輝かしい合格実績を誇る名門校に。学習塾から学校づくりと、富山に質の高い教育環境を築いてきた片山浄見理事長に、これからの夢、そして教育の在り方について語ってもらった。

国公立志向の強い北陸の地に新風を巻き起こす。

─育英センター、そして片山学園を設立したきっかけは。

「僕は大学卒業後、東京の広告会社に入社したのですが、一年後に富山に帰ることになり、地元の建設資材会社に勤めました。ある日、得意先の人から息子さんの家庭教師のアルバイトを頼まれたんです。その子は不登校で、最初は勉強に全く興味を示さなかった。けれども、何回か通ううちに少しずつ興味を示してくれるようになって、成績も当初の400番から30番くらいにまで上がり、3年後には富山県の、それも上位の公立高校に合格しました。
一生懸命頑張れば、必ず結果に結びつく。その経験をきっかけに〝僕の進む道は教育だ〟と、会社を辞めて学習塾をつくりました。それが昭和52年10月1日、僕が28才のときのこと。嬉しいことに、『育英センター』の生徒第一号として入塾してくれたのは、その教え子だったんですよ。
『育英センター』は、進学塾ではありません。成績のいい子も悪い子も、とにかく勉強で悩んでいる子、もっと勉強を頑張りたい子のための塾。そういう思いで塾経営をしてきました。けれども、生徒一人を育てるためにはある程度の時間と環境が必要です。学習塾では時間にも環境にも限界がある。だったら、学校をつくればいい。学校をつくれば24時間、365日生徒を見ることができるから。そうして富山では初の私立の中高一貫校を立ち上げる決意をしたんですね。

2016年4月に、富山市内の中心部に設立予定。地域に根差した私立小学校を目指す。

2016年4月に、富山市内の中心部に設立予定。地域に根差した私立小学校を目指す。

とはいえ前例がないだけに、失敗は何度も。1度目は土地の問題、2度目は認可の問題、3度目は資金の問題…いずれも辛い思いをしたけれど、失敗を重ねることによって、それが糧となって成功へと導くことができたと思う。失敗のない人生なんてない。挑戦すればするほど失敗はあるわけで、失敗を恐れて挑戦しなければ何もはじまらない。事が大きければ大きいほど失敗も多いし、リスクも大きいけれど、それに見合うだけの喜びもいっぱいあると思います」

日本の将来を担うリーダーを育てることが究極の目的。

─2013年度の合格実績が大変躍進され、難関大学の進学校というイメージが定着してきたのでは。

「卒業生も3期生となり、少しずつ結果は出てきていると思います。その一番の原動力は、中高一貫校であるということ。今年、東大理Ⅲに合格した生徒というのは、中学3年生のときに落ちこぼれたけれど、歯を食いしばって頑張った生徒なんです。中3で落ちこぼれたら、高校受験で富山県の進学校には入るのは難しい。中高一貫校だったからこそ、やりなおすことができたんですね。sIMG_6720
それから、寮生のライバルがいるということ。互いに切磋琢磨して、大勢の先生や家族にも助けられながら勉強に励んだことも合格につながった要因だと思います。
来年は東京大6人、京都大3人、国公立大医学部は15人と皮算用をしています。先輩が結果を出すと後輩もそれに続けと元気づけられますし、一つの伝統になってくれるものと期待しています」

─今後の学園の抱負をお聞かせください。

「この学校をつくった目的は、日本を担う人材、将来の日本を引っ張るリーダーを育てること。
つい先日、前国連事務次長の赤阪清隆氏がわが校で講演をしてくださって、こうおっしゃった。〝日本だけじゃなく、世界を担う人材になってほしい〟。そして、〝僕の夢は国連の大会議場で講演することだった。その夢を実現できたのだから、夢はきっと叶う〟と。まさしくこの学校の究極の目的はそれ。単に難関大学へ行くとか、いい会社に就職するということだけではない。世界のいろんなところで活躍できる人材、自分の夢に向かって邁進する人間になってほしいのです」

幼稚園から大学まで学べる学園を。

─2016年4月には小学校を設立されると発表されていますが。

「2015年の春に新幹線が開通します。すると東京─富山間は約2時間で行き来できるようになるので、富山の離れたイメージが解消されると思います。そうした背景もあって、富山市内の中心部に新たに小学校を開校することにしました。
この小学校では、しつけ教育をしっかりやりたいと思っています。片山学園の中学生を見ていても、しつけが行き届いていない生徒がまだまだいるんですね。〝3つ心、6つしつけ、9つ言葉、文(ふみ)12、ことわり15〟という言葉があります。これは3歳で心根を育て、6歳までにしつけをし、9歳で言葉遣いを教え、12才で読み書きそろばんをできるようにし、15歳までに物の道理をわかるようにするということ。小学校の6年間というのは、人を伸ばすとても大事な時期なんですね」

─地域の人の反応はいかがでしょう。

「地域住民の中には〝私立だから地域の学校としての役割を果たしてもらえないのでは〟と、危惧する人もいます。でも、そうではなくて、盆踊りや体育大会を一緒に行うなどグランドや建物も地域の人に使ってもらう。もしもの時には防災地区センターとしての施設にもなる。そんな地域に開かれた小学校づくりをしていきたいと思っています」

─片山学園は小中高一貫校になるということですか。

片山学園全景:富山平野を一望する好立地に、どっしりとたたずむ片山学園中学校・髙等学校。豊かな自然に抱かれてのびのびと学ぶことができる。

片山学園全景:富山平野を一望する好立地に、どっしりとたたずむ片山学園中学校・髙等学校。豊かな自然に抱かれてのびのびと学ぶことができる。

結局はそういうことになるでしょう。小学校の定員は一クラス30名で、二クラス60名を考えています。片山学園の定員は一学年120名。小学校を卒業した60名はそのまま片山学園へ、あとの60名はその他の学校から募集することになると思います。将来的には新たに幼稚園も設け、また大学も設立するという構想を練っています。ゆくゆくは幼稚園から大学までの一貫校をつくりたいですね」

─大学の設立はどのくらいのスパンで考えていますか。

「僕は75才までは現役でいたいと思っています。今64才ですから、あと10年くらいの間に設立できればいいですね。もし自分ができなくても、構想は次へ引き継ぎたいと思っています。
地方の大学は私立も公立も、経営力が問われています。富山県でも定員を充足していない学校が半分以上ありますが、必要な大学はつくるべき。淘汰の時代にどう生き残るのかではなく、どう発展させるのかを常に考えれば自ずと答は出てくると思います。
いかに生徒や保護者のみなさんに評価され、時代のニーズに合わせた魅力ある大学をつくることができるか。その源になるのは、経営者の経営判断能力です。経営者というのは時代を見る能力、人を見抜く能力、運を切り開く能力の3つが必要。運は、みんな平等にやってくるものだけれども、うまくつかむ人とそうでない人がいる。〝この時だ〟という時に勝負をかけられるかどうかなんです。これからも足下を見ながら、石橋を叩きながら、気を見ながら、勝負していきたいですね」

─下村博文文科大臣になって、文科行政はどのように変わると感じていますか。

「非常に大きな期待感を持っています。ただ一つ注文するならば、高校無償化に関してですね。教育は投資だと思うので、すべてを平等にすることはないと思う。国や行政ばかりに頼らないで、自分の力でやり抜く、自分で切り開くということも大事だと思います。
それから私学でこれ以上の補助金も必要ないと思う。今1人あたり30万円の補助金が出ていますが、これで学校経営ができなかったら、それは経営者の怠慢です。どういう学校をつくるのか、どう学校を運営するのか志が問われていくと思います」

TOP LEADER Interview|株式会社 学究社 河端 真一 社長

都立中・高校合格者のシェアを最大にして、日本一の私塾へ。

株式会社 学究社 河端 真一 社長

株式会社 学究社 河端 真一 社長

公立中高一貫校が急増し、不景気もともなって塾業界が変革を迎えた4年ほど前。いち早く公立校対策をはじめ、経営者の手腕を発揮してきた河端真一社長。その柔軟かつ大胆な戦略と今後のビジョンについてうかがった。

 

 

私立から公立へ、勇気ある決断。

──いち早く公立中高一貫校対策をはじめられ、今やその市場においてはナンバーワンです。

「我が社は、『日本一の私塾』を目指しています。日本一ということは『東京一の私塾』、東京一ということは都立中と都立高の合格者のシェアを最大にまで高めることなんですね。

中高一貫校というと、一般的には私立と受け止められますが、私立中は都内に188校あって、受験者数は約2万5千人。一部の有名校以外は定員割れのところもあり、著しく地盤沈下しているのが現状です。一方、都立中は11校あって、1600人の定員に対して約1万人が受検します。7人に1人しか受からない難関なんですね。ということは、6人は不合格になる。この生徒たちもしっかり集めきって、3年後の高校受験でも抜群の合格率を収めたいと思っています」

──次は都立高校の合格実績ナンバーワンを目指していこうということですね。

株式会社 学究社 河端 真一 社長「そうです。中学受験で泣きを見た生徒は、高校受験、それも都立の一番手二番手の高校に合格する最も有望な生徒ですから、すでにenaには受験に合格する生徒が確実にいると自負しています。我々が中高一貫校対策を始めたのは4年前。都立中を志願する小学4・5年生を入口として、その子たちが都立高校を受験するのは5年後以降になりますから、そろそろ結果として表れるタイミングですね」

 

──学究社さんが公立に切り替えた理由はなんでしょう。

「我々も以前は、早稲アカさんや栄光さん、市進さんのように、麻布や開成や武蔵、早慶といった私立の上位校ばかりを狙っていました。授業料を月額6~7万円いただいて。でも、学費が年間約100万円かかる私立中は、一般的な子どもはなかなか行きにくいですよね。だから、公立校というボリュームゾーンに焦点を合わせて、授業料も2万円にしたんです。

さらに、校舎の立地もターミナル主義から、各駅停車主義に変えました。我々自身が遠くのスーパーより近くのコンビニで買い物をするわけですから、やっぱり塾の方から出向いていかないとダメなんです。利用者にとって通いやすい場所、通いやすい価格。そういう利用者の負担にも経営者は目を向けるべきですね」

sサブ2──当時の社内の反応はいかがでしたか。

「それはもう大反対でしたよ。それまではみんな算国理社を教えていたのに、適性検査がメインになって自分が培った技術がゼロになってしまうわけですから。授業料にしても、失敗したときのことを考えたら、そこまでのリスクは背負えないですよね。創業経営者だからこそ、思い切った決断ができたんだと思います」

グローバル教育には慎重さが必要。

──看護医療系、芸大・美大の受験部門を設けたのは。

「我々は、教育という子どもたちの未来についての仕事をしています。中学から高校へ行って、大学に進むというのは主流ではあるけれど、看護師の道や、芸術家の道もあるわけです。あらゆる可能性に応え、間口を広げていかなければなりません。同時に、それらは全部、我々にとっても未来に対する種まきでもあるんですね」

──他の〝種まき〟として留学など海外での校舎展開は。

美術に関する職種は多種多様。『芸大・美大受験総合予備校 新宿美術学院』では美術大学受験を前提に、それぞれの職種に応じたクラスを開講。

美術に関する職種は多種多様。『芸大・美大受験総合予備校 新宿美術学院』では美術大学受験を前提に、それぞれの職種に応じたクラスを開講。

「私は英語の教師としてずっとやってきましたが、英会話や留学を勧めるのは難しいと思います。日本人はなぜ英語ができないかというと、日本で生きていくのに英語は必要ないから。日本語しかしゃべれなくて苦労することはないからなんですね。つまり日本で生きる限り英語が必要ないから、学ぶことも必要ないのです。

もちろん、社会には英語ができる人はある程度必要です。でも、昔にくらべて今は帰国子女が圧倒的に多いから、必要な数は帰国子女で充足しています。将来、そのポジションに就こうと思ったら帰国子女を超えないといけない。それは難しいですよね」

──海外に住む日本人、現地の子どもたちに門戸を開くことは。

「欧米では日本人も、日本人学校も数が減っています。その代わりベトナムやタイといったアジアは増えています。だから、ほんとうはアジアへ出て行かなくてはならないのですが、その国で会社を立ち上げて、法的な要件を満たして営業許可を得るとなるとコスト的に合わないんですね。

現地の子どもたちを教えるというのもまだ難しいですね。アジアには塾はほとんどありませんから、現地の方に説明をして理解していただくまでには時間がかかります。それだけ時間を費やしても生徒が集まらない可能性もあります」

第1四半期決算では私塾界一の伸び、さらなる売上に期待。

──第1四半期(2013年4月1日~6月30日)の決算では売上は6・1%増、経常損失は209百万円でしたが。

「売上は、実は小中学生部門だけでみると15・1~2%増なんです。その他の部門が停滞したために総合的に6・1%増という結果になりました。

利益は、昨年に比べて1億円減っていますが、この原因ははっきりしていて、『パースペクティブ』という新しいオリジナル教材をつくったからなんです。都立中の適性検査対策に特化した、それはもう絶対的なテキスト。それもフルカラーでつくりましたので予想外のお金がかかった。中間決算からは予定通りの数字になっていくと思います」

──中長期的な売上目標などはありますか。

「はっきりしたものはありませんが、将来的にも楽観しています。毎年30教室くらい新校舎を出してきて、生徒数も増えています。それらが安定軌道に乗るには5年くらいかかるわけですから、今はまだ本来上がる売上まで上がっていない。このペースで行けば、全く心配することはないですね。

ただ、今期の新校舎は20教室くらいに減らす可能性はあります。生徒が集まりすぎていて、既存教室を増床、社員を増員しなければならなくなっていますので。嬉しい悲鳴ですね」

──売上に対する広告比率を教えてください。

株式会社 学究社 河端 真一 社長「広告費について私はよく知らないんです。世間では『塾業界は競争の時代』と言われていますが、我が社は毎年合格者も増え、売上も増えていますから、競争が厳しいなんて全然思っていません。むしろ、乱立・競合・競争という流れで考えると、乱立の状態なんですね。そういう段階にあるときは、経費削減とか、広告費が何%とか考えてちゃいけない。どんどん攻めていけばいいと思います」

──ウェブの広告効果はどうみていらっしゃいますか。

「ウェブは、生徒募集をするということでは、とても大事だと思います。例えば、家や車など高額なものを買うとき、ウェブでよく調べて買うでしょ。ところが、塾は高額商品にもかかわらず、パンフレットしかないから調べようがない。調べようというニーズに対して応えるためにも、ウェブを使って情報をセグメントしていかなければならないと思います。

人材募集については、フェイスブックでも柔軟に対応しています。塾は人が大事。とりわけ新卒というのは生徒と年令も近いので決定的に重要な要素です。まずは、どれだけたくさんの学生にリーチできるかがポイントですからね。今年、我が社では、社員の1割以上にあたる46人の新卒を採用しました。大変たくさんの応募があったのですが、彼らに聞くと転勤がない、あったとしてもほとんど都内ですから引っ越す必要がない、というのも我が社のメリットのようです」

 

『月刊私塾界』2013年10月号掲載

TOP LEADER Interview|早稲田アカデミー 瀧本 司社長

生徒のやる気を引き出し学力を伸ばす。独自の指導システムで、合格実績全国ナンバー1へ。

塾の枠を超えるユニークな切り口で、さまざまなブランドを構築してきた早稲田アカデミー。30周年の節目を迎えた今、『本気でやる子を育てる』を教育理念に突き進んできた成果、そして今後の方針について、瀧本司社長にたずねた。

早稲田アカデミーの瀧本司社長

早稲田アカデミーの瀧本司社長

本気になれる環境やきっかけがあれば、難関校合格は夢じゃない。

──早稲田アカデミーに商号変更されてから30年という節目の年を迎え、あらためて今想うことは。

「2013年の中学入試では、御三家中や早慶中などの難関校にトップレベルの合格者を送り出し、高校入試では開成高・慶女高・早慶高へ全国ナンバー1の合格者を送り出しました。

中でも特筆すべきは、早稲田アカデミーに通い始めたころの偏差値は〝50〟前後といった学力の生徒が難関校に合格していること。スタートの学力に関わらず、環境やきっかけをつくってあげれば、生徒自らが望む憧れの難関校合格を実現することは可能だということです。あらためて、『本気でやる子を育てる』という教育理念を堅持し、実践していきたいと思います」

──『本気でやる子を育てる』ためのポイントはなんでしょう。

「大きく分けると、一つは〝競争する〟ということ。それから、〝生徒とのコミュニケーション〟です。受験は他人との競争です。だから早稲田アカデミーでは、どんなに小さなテストでも必ず順位表を貼り出します。それに反応する子もいますし、あるいは『夏期合宿』のような特訓の場において〝みんなといっしょにこれだけ頑張った〟ということに反応する子もいます。その反応は受験に挑む原動力になりますから、競争していることが明確で、結果としてわかる状態をつくってあげることが大切だと思います。

一方で、受験は自分自身との競争でもあります。受験に対して自分はどうとらえ、どんな目標を立てればよいのか。これは先生とのコミュニケーションが必要になるんですね。ある生徒には偏差値を〝70〟に上げることを目標にして、またある生徒には〝まずはこの単元だけはできるようにしよう〟という目標を与える。それぞれの子どもに応じた目標をきちんと与え、そのためにはどうしたらいいかというアドバイスをする。目標がクリアできたらより高い目標を設定し、チャレンジ。できなくても繰り返しコミュニケーションをして軌道修正していくことで、子どもたちのやる気は変わってきます」

──とにかく〝やる気〟を引き出すことが大切なんですね。

「そうです。受験というのはあくまでも子どもの人生をつくるきっかけにすぎません。それを目標にしてどう取り組んだかというところに本当の価値がある。一生懸命取り組んだことが財産となり、今後の人生においても大きな糧となるのです。

私たちは、お子さんやご家族のみなさんが〝やってよかった〟と振り返られるような受験であってほしいと願いますし、そのためにスタッフ一同、全力でサポートしていくことをお約束します」

手厚いサービスで、すべての塾生を全力でサポート。

──中学受験の合格実績が伸びている理由は何でしょう。早稲田アカデミーの瀧本司社長

「ひとつは、リーマンショックによる中学入試の冷え込みがあった時期から、低学年の募集に力を入れたこと。もうひとつは、四谷大塚の『予習シリーズ』に対応した、指導マニュアルが充実したこと。それらが、今年になって、ようやく実を結んだというわけです。

生徒の獲得に関しては、『全国統一小学生テスト』をはじめ、体験授業や低学年向けの『チャレンジテスト』などを用意して、何度もアプローチをかけていきました。すべて無料ですから、それなりに費用はかかりますが、広告宣伝費として低学年のうちに投資をして、より優秀な生徒さんを早めに獲得しておく方が、4年後、5年後、6年後と長いスパンでみると効果的であると考えたのです。

新『予習シリーズ』については、マスの生徒層にはハードルが高くなりました。ただし、優秀生にとっては何の問題もなくチャレンジできるものになっています。教える深さは変わらないのですが、内容をぎゅっと凝縮して短時間に詰め込んでいるものですから量が多くなっているのですね。だから優秀生はどんどん伸びていける。逆にマスの生徒層には、クラスごとにピックアップする問題や、生徒たちに到達させるべきレベルの見極めを緻密にコントロールして、ドロップアウトすることなく的確に伸ばしていけるマニュアルづくりをしています」

──ここ近年、『早稲田アカデミー個別進学館』や『早稲田アカデミーIBS』といった新しい取り組みを次々と始めていますが……

「集団でのライブ授業には、サービス的な面での限界があります。それを補う形で設けたのが『早稲田アカデミー個別進学館』です。集団授業を行う教室のすぐ近くに個別の教室を構え、併用できる状態にしました。今後は、各校舎あるいは自宅で、パソコンによる自学自習をフォローするシステムにも着手しようと思っています。

また、英語教育も変わりつつあります。これからは、言語としての英語という意識改革が必要です。目指すところは、〝グローバルな人材〟になるための英語教育。国際人としてビジネスの世界でも成立する英語力を身に付けること。社会人になってからしゃかりきに英語を勉強するのではなく、学生のうちから英語圏の方々と自然に会話ができる。そうした下地をつくってあげる教育が求められています。だから受験英語にとどまらず、それを超えるコンテンツとして、東大・医学部・ハーバードに一番近い小学生たちの英語塾『早稲田アカデミーIBS』が生まれました」

──その反響はいかがですか。

「『早稲田アカデミー個別進学館』は2年ほど前からはじめ、明光ネットワークジャパンと提携し、現在は首都圏に20校舎を構えています。生徒数は1200人ほど。1校舎平均60人くらいになります。基本的に1対2で自立をさせながら進めるスタイルで、汎用性が高いので、3年後くらいには100校舎まで展開を目指しています。

『早稲田アカデミーIBS』は、保護者の方にも一緒に授業を受けていただくなど制約のある教室ながらも、ほとんどのクラスが満席の状態で、キャンセル待ちをしていただいています。今は御茶ノ水の1カ所だけで首都圏の東側の方が対象になりますので、次は西・南側を対象に神奈川エリアにも教室を開こうと思っています。

さらに『早稲田アカデミーIBS』のノウハウを一般化して、今秋から特別なカリキュラムをスタートします。小5~6年の2年間で、3級程度の英語能力を身に付ける教室を首都圏で10カ所ほど開く予定です」

中・高校、大学入試のすべてにおいて合格実績日本一を目指す。

──広告的な戦略としてはどのようにされていますか。

9月の新学期開講チラシ

9月の新学期開講チラシ

 

「広告予算は、収益の状況を見ながら調整はしますが、およそ8%です。内訳についてですが、やはりウェブ、インターネットにかける広告費が増えてきています。テレビCMにかける予算はほとんど一定。チラシもそれほど減らしてはいません。ウェブの場合は、パソコンのスイッチを入れてブラウザを立ち上げてという顧客の能動的な行動がなければ届きませんが、チラシは顧客が受動的であっても情報だけは届けられるので、根強く残っていくと思います」


──ウェブに関して、ソーシャルメディアへの対応はいかがですか。

夏期合宿のパンフレット

夏期合宿のパンフレット

「仲間意識を高めたり、卒業生たちのネットワークづくりにはラインやフェイスブックは活用できるツールだと思いますし、そこから発生していけば口コミの材料としてコントロールはできると思います。ただし、そこに生徒が関与すると、想定されるリスクを回避しなくてはなりませんので、慎重にやっていかなくてはいけない。活用にはもう少し見極めが必要ですね」

──今後の経営的な目標と、瀧本社長が早稲田アカデミーで実現されたいことはなんですか。

「経営面では5年後には売上は280億、利益は22億くらい。10年後には売上は400億、利益は40億くらいが目標です。実現したいことは、10年後には学習塾として合格実績で日本一になることですね。まず、御三家中は確実にトップに。高校入試は誰からもナンバー1と評価されていますが、国立高校や都県立のトップ校など、まだいくつかの学校はナンバー1のタイトルをもらっていないものがありますので、それを全部取る。それが最終的には東大につながっていくと思いますので、ゆくゆくは大学入試でもナンバー1になれるのではないかと思います。10年経つと私は60歳になります。引き継いだ責任をそれで果たしたい。もちろん、できれば売上・利益でも日本一になりたいですね」

疾風の如く|19BOX(千葉県)代表 安藤賢孝さん

sメイン(予備候補)

本当の自分はどこだ。
塾との出会い、師との出会い……
演じ続けて来た自分に別れを告げ、
ついに手にした「自分ブランド」。
想いのたけを詰めた「箱」の蓋は
いま、開かれた。

 

 

 

探し求めた「自分ブランド」をこの手に

「空っぽ」の優等生

少年・安藤賢孝は、明らかに「完璧」だった。勉強は常にトップ、クラブではキャプテン、さらに生徒会長も務める。スポーツも得意、ピアノだって弾けたし、先生受けも抜群にいい。「オレ以上のヤツなんていない」、自分でもそう思うほど。

しかし華やかな称賛の裏で、その秀才の心は虚しいまでに空洞だった。いつだって自信満々、マジメで何でもでき、人望も厚い優等生。いつしかそんな、周囲の目線に応えた自分を演じるようになっていたのだ。しかし、それを崩してしまえば自分は一気に孤立するのではないか。そんな不安に苛まれるようになる。「本当の自分」を出したい。いや、本当の自分って何だ? そもそもオレには本当の自分なんてものがない……実はその孤独感へのアンチテーゼこそが、安藤の塾作りの原点だ。

自分の生きた証を残すために

その後は「とりあえず」国立大を卒業し、大手電機メーカーに「なんとなく」就職。その頃になっても、空っぽの心は埋まらないままだったのだ。それでも3年働いてみたが、やはり何かが足りない……。そんな気持ちを埋めるべく、週末に塾でアルバイトを始めた。

いつも虚無感を抱いていた安藤だったが、塾講師は「楽しい」と感じた。生徒に過去の自分を重ねたのか、彼らの主体的な人生創りに関与できることに喜びを見出せたのだ。やがて、次第に塾の仕事にのめり込むようになる。

しかし、そうさせたのにはもうひとつ理由がある。塾の上司の存在だ。彼は「自分」をハッキリと持つ強い男で、安藤も素直に憧れた。彼もまた、「ビジネスとは」「社会人とは」「生きるとは」といった哲学を、厳しくも惜しみなく安藤に叩き込んだ。

そんな日々の中、やがて安藤の中にも「自分」が見え始める。それが「自分の生きた証を残したい」「そのために、自分で塾をやってみよう」という想い。その志を胸に開いたのが「アンドー塾」だ。

「19BOX」。すべての想いをその箱に込めて

「こうあるべき」――そんな息苦しさの中で生きてきた安藤だけに、塾に対してもその思いは強く抱いていた。「塾は中身で勝負」、それは分かる。しかし、成績を上げるだけでいいのか? 既成概念に捉われず、もっともっと付加価値があってもいいじゃないか。そう思ったのだ。

そこでまず、自らの過去をふまえて子どものキャリア観育成をミッションに据え、勉強や受験を「人間力を高めるためにやるもの」と位置付けた。だから進学においても「行けるところに行く」という判断基準はないし、保護者から「どの学校へ進学する子が多いですか」と問い合わせがあっても、毅然と「ウチはそういう塾じゃないんです」と言い切る。広告でも合格実績を謳うことはしない。

また、元々が聡明なアイデアマンだけに、塾や勉強を楽しむためのフックも多数仕掛けた。例えば、目的ある勉強意識の育成戦略「夢カナストラテジー」。テスト対策の「天下一勉強会」。部活を引退した三年生は「アンドー部」に入って、「自主トレ」「練習試合」と称した勉強会に取り組む……etc。

極めつけは先ごろ設立した、アンドー塾を含む自塾ブランドを包括する上位概念、総合ブランドの「19BOX(ジュークボックス)」。「自分の人生は自分で創る」「自分ブランドをデザインする」という考えのもと、あらゆる生徒の個性や夢に対応するための「塾の箱」だ。

そこまでブランドという概念にこだわるのは、「自分」を渇望し続けてきた安藤だからこそ。そして今、彼はついに見つけたのだ。塾を通じて自分を表現する術を。自分の「ブランド」を。

19BOX――それは、本当の自分、教育への想い、ビジネスへのロマン、安藤のあらゆる想いが詰め込まれた夢の「箱」なのだ。(敬称略)

プロフィール

安藤賢孝 ANDO Masataka

sメイン1979年、千葉県生まれ。開業7年目、5教場(今夏、6教場目を開校)約500名の生徒を抱える。幼少期より「本当の自分」を出せないまま優等生を演じ続けた過去を持つことから、既成概念に捉われない塾運営を展開。アパレルを思わせるクールでシャープなイメージ戦略もそのひとつ。また、そういった新しいチャレンジを共に行える仲間を探すべく、コンサル事業にも着手している。

 

WEBサイト

ブログ「恋愛と同じですよ!」

 

TOP LEADER Interview|株式会社ナガセ 永瀬昭幸社長

去る5月16日、東進衛星予備校全国大会の「第20回記念大会」にて新たな決意を表明された、永瀬昭幸社長に、東進衛星予備校をはじめ、東進ハイスクール、四谷大塚、東進こども英語塾、イトマンスイミングスクールなど、さまざまな角度から教育に専念してきた観点から、さらに深く話を伺った。

独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する
株式会社ナガセ 永瀬 昭幸社長

自ら求め自ら考え 自ら判断・実行する 生徒を育てる

株式会社ナガセ・永瀬昭幸社長

―――ナガセグループ全体の教育目標=企業目標である「独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する」 具体的にはどんな取り組みをされているのですか。

「わたしたちは、『独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する』ことを教育目標としておりますが、独立自尊とは、自らの人生について信念を持ち、プライドにかけて決めたことを完遂することであると考えています。具体的な生徒指導では、まず生徒自身が、何をどのように勉強するのか自分の頭で考え、計画を立てる。もちろん、我々は生徒が考えたり計画するための材料はたっぷり与えますし、いつまでにそれをやるのか締切を決めて、ちゃんとやるように励ます。生徒の考えや計画が正しかったかどうかは、模擬試験の成績などから、生徒が自分で考えて、問題があれば計画を変更します。そうして自分の責任で、自ら求めるという職場をつくることで、独立自尊の精神が育まれるわけです」

―――”心の教育”に取り組まれて5年目になります。

「これまで長く教育に携わってきてわかってきたのですが、「受験に王道はない」という言葉の通り、志望校に合格しようと思ったら、徹底的に努力をするしかない。だからといって、誰かに強制されて勉強をしても学習効果は低く、目の前の受験に勝てたとしても将来につながりません。一方、自ら求め、自ら考えて勉強すれば取り組みの成果は飛躍的に高まります。自ら求め、自ら考え、自ら判断・実行する生徒を育てるためには、生徒の心をしっかりと鍛えていく必要があると考え、そういう方向でやってきたことが、ここまで成長できた要因だろうと考えています。

先日、雑誌で東大合格者のインタビュー記事を見ましたが、東進出身の生徒は皆、しっかりと未来を見据えて、自らの志や夢を語っていました。あれには私も嬉しくなりました。夢は、努力をするための原動力だと思います。しっかりとした心が備わっていれば努力を継続できるし、私たちの取り組んでいる”心の教育”は、感度のいい子ほど影響を受けていきますから、まずは感度の良い生徒を自ら求める状態に変えていく。そのうえでだんだん”心の教育”が多くの生徒に浸透していけばいいなと思っています」

応用力を身に付け、予習と復習のバランスのとれた学習指導を

四谷大塚の新「予習シリーズ」

四谷大塚の新「予習シリーズ」

―――四谷大塚の予習シリーズが今年改訂されました。大きなポイントとしてどんなことがあげられるでしょう。

「生徒に大きな夢、高い志を持たせ、自ら求める心、自ら考えて勉強に取り組む習慣を身につけさせるには、高校3年間だけでは不十分で、小学校の頃から取り組む必要があると考えています。たとえば、私は、人に教わったことだけを復習して、解答のパターンを丸暗記するだけでは、将来自らの頭で考えて社会で活躍できる人間にはならないだろうと思う。それだけではなく、自分で一生懸命予習して、自分の頭で考えて問題を解いていくという訓練も大切だと思います。もちろん、成績がよくなかった単元の欠点を是正する必要もありますから、予習至上主義でも、復習至上主義でもよくないと考えています。今回の予習シリーズ改訂は、どちらもバランスよくやって、しっかりわかった上で次の単元に入っていくといったカルチャーに切り替えようという試みなんですね。

まず、その5年生の3月までに受験の課程を全部修了させる。そして、6年生の1年間をかけて、それに対する応用力をつけながら志望校対策をしっかりする。基本的には”スモールステップ・パーフェクトマスター”の考え方です。自分にぴったりのレベルからステップアップし、習ったことを確実にマスターする。けれども、勉強というのは面白いもので、はじめて学んだときは多少わからなくても、先の段階へ行って振り返ってみると、こういうことだったのかと理解することもけっこう多い。広い立場からものを見てみると、かえってわかりやすいこともありますから、基礎基本を徹底的に身につけながらも、応用力の高いことも一緒にやっていきます。同時に、毎週行う〝週テスト〞で、授業で学んだ内容を復習する。この取り組みは、どんどん底力が付いてくると思いますよ」

日本の将来のために、世界で活躍できる人財を育成

―――文科省を中心に教育再生実行会議が立ち上がり、入試制度などでの大学改革も進んでいくかと思います。そうなると教育の仕方も大きく変わっていくのではないでしょうか。

「まず大切なことは、”このような人間を育てるんだ”という大きなビジョンを描くことだと思います。そのうえで制度の変化に対しては、積極的に手を打っていきたいと思います。こども英語塾ではすでに、小学生の段階から他の教科も 全部英語で教えることもしています。英語は、一つの科目として学ぶだけではなく、数学や理科や社会も英語で学ぶことで、本当に使える英語になっていくと思っています。

東進USAオンライン講座にしても、時差による弊害を取り払った仕組みを作り上げましたので、全国の塾のみなさんにも提供させていただきたいと思っています。「何を使って英会話を勉強するか」と考えるとき、金額が安いかどうかで決めるのは、私は邪道だと思う んです。言葉というのはカルチャーですから、アメリカのカルチャーを学びたいのであれば、アメリカのネイティブと話をすべき。旅 行で話が通じるということだけで満足されるのであればそれでけっこうですが、ビジネスでは一切通用しませんから。ビジネスで、億 単位のお金を動かすような仕事をするつもりなら、アメリカのカルチャーと密接に関わらないと無理だと思います。

日本の将来を考えると、世界で活躍できるような人財を育成していかないと、もうこの国は立ち行かない。だから、そうした教育を、公立学校がやるのか、大学がやるのか、民間教育者がやるのか、などという議論は不要だと思います。どんな人財を育てていくのか、しっかりとした目標を掲げ、それを教育に携わる全ての人間だけでなく、実業界も巻き込んで、日本全体で取り組んでいく。その中でしっかりとした人財を育成できるところが、日本国民が頼りとする教育機関になっていくのだと思います。私は、全国の塾の先生方と協力しながら、何としてもこの大仕事をやり遂げたいと思っています」

すべて無料で受けられる小・中・高の全国統一テスト

すべて無料で受けられる小・中・高の全国統一テスト

日本の将来を担う、リーダーを育成する

―――6月2日に、小学1年生から6年生の全学年対象の全国統一小学生テストがありましたが、こちらの反応はいかがでしたか。

「全国統一小学生テストは、受験者数は毎回10万人を突破しています。また、今年から全国統一中学生テストもスタートし、今回は11 月4日(月)に実施します。これで、全国統一高校生テストと合わせて、小中高の全国統一テストが揃うことになります。

全国のたくさんの塾の先生方に趣旨に賛同いただき参加をしていただいており ます。全国の才能ある生徒 諸君を発掘し、年月をかけて育てていく。日本の将来を担う人財を発掘・育成することにつながる取り組みであると確信していますので、これからも一生懸命取り組んでいきます」

―――今後の目標はなんでしょう。

「今年度、東大現役合格者は600名になり、現役合格者の3・3人に1人が東進生です。難関大学を中心に、東進生の占めるシェアが高まってきました。将来の日本を引っぱっていくような、たくさんのリーダー候補生をお預かりしているのですから、日本の未来を明るいものにするために、教育に携わる人間の役割、責任は極めて大きいと考えています。

東進ハイスクール、東大現役合格600名達成のポスター

東大現役合格600名達成のポスター

国力とは、国民一人ひとりの人間力の総和です。私は、生徒の人間力を高めることで、日本の将来を拓いていくことが、教育機関としての使命であると考えています。

私どもだけではできないことであっても、日本全国の先生方と力を合わせれば、日本全体を巻き込んだ教育運動を起こすことができると確信しています。全国のたくさんの先生方に支えられ、毎年開催している東進衛星予備校全国大会も今年で20回の節目を迎えることができました。これからも、先生方にご指導頂きながら、お預かりした生徒全員を伸ばすシステムを作りあげられるよう一生懸命頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」

『月刊私塾界』2013年8月号掲載

疾風の如く|進学塾ブレスト(佐賀県)代表取締役社長 犬走智英さん

ブレスト犬走智英さん
剣道があった。音楽があった。
歴史があった。
親友が、悪友が、愛する人がいた。
それらすべてが、
彼の信念を創り上げている。
栄光も挫折も経験し、
夢と希望を乗せたバイクが西へと走る。

 

 

答えはシンプル、「勉強はスポーツだ!」

「オレは建築家になる。お前はどうするんだ」

「さよなら、東京」―。6年前の1月、犬走智英(当時24)は恋人を背中に、箱根峠をひたすら西へ、西へ。二人を乗せたバイクが目指すは、犬走の故郷・佐賀だ。寒風の中、体は冷え切っていたが、心は夢と希望で熱く燃えたぎっていた。

さらに遡ること、幼少期。犬走は、あるガキ大将と仲良くなった。偶然にも、二人とも剣道少年。「コイツには負けねー!」とライバル心に燃えて練習を重ね、佐賀県武雄市の大会では優勝も飾った。

人としての礼儀。競い合い、高め合う喜び。剣道は、塾人・犬走としての原点を叩きこんでくれた存在だ。

中学では定期テスト学年1位だったが、転機が訪れたのは高校時代。地元の進学校へ進んでからだ。「井の中の蛙」という言葉の意味を思い知らされ、あっという間にドロップアウト。髪を染め、悪友に借りたバイクを乗り回すようになる。

ただ、素行は荒れていたが、同時に「なぜオレはこうなった」「教育って何なんだ」という想いも常に抱いていた。仲間とたむろしては、将来を語り合う。「オレは建築士を目指すぞ。犬走、お前の夢は何だ?」とガキ大将。「そうだな、オレは……教育の道に進みたい」。

 

抑鬱状態。どん底を味わう

洗練された外観が目を惹く教室。手がけたのは、旧来の親友だ

洗練された外観が目を惹く教室。手がけたのは、旧来の親友だ

田舎町の不良少年たちにとって、東京は憧れの街だ。そこに行けば、何でも叶う気がするビッグタウン。犬走にとってもそうだった。なんとか合格を勝ち取るための効率的なトレーニングをし明治大学へ進むが、「デカいことをやりたい」という気持ちと、反逆精神は持ち続けていた。自分の感情を昇華するため、社会の矛盾を痛烈に批判するHip-Hopの音楽制作にハマり、Lyric(歌詞)をノートに書き綴った。恋人と出会ったのもこの頃だ。そして、当時の音楽仲間と制作した楽曲は、スノーボードDVDのBGMとして採用され、コンピレーションアルバムが全国のスポーツショップでも販売された。

その後は大手進学塾に入社し、そこで頭角を現す。社長の信任も厚く、起業家マインドの薫陶も受けた。やりがいを感じ、昼夜を問わず働いていたが、好事魔多し。自らを追い込みすぎ、心と体が蝕まれていく。「オレがやらなきゃ」という義務感だけが自分を動かしていたのだ。胃痛だと思って診察を受けた結果は「抑鬱状態」、即ドクターストップ。休職に追い込まれ、虚無な日々が過ぎて行った。

さよなら、東京

ある日、見かねた恋人は「カフェでも行ってノンビリしたら?」と勧めてくれた。ココアをすすりながら「教育とは」という想いが頭をかすめていく。「オレをはじめ、田舎で育った人の多くは『競争』を楽しむことを知らない。そんな育ち方をして、厳しい実社会に放り込まれたらどうなる。オレみたいに壊れちまうんじゃないのか」。「練習して、できるようになる、ライバルに勝てる、そうすれば嬉しい。実にシンプルじゃないか。勉強も仕事もスポーツと一緒だ」。「自分の塾を創りたい。そうだな、名前は何にしよう?」……かつて綴ったLyricノートをパラパラめくり、見つけた言葉がこれだ。『BRAIN STORMING』―「いいな、これ。『ブレスト』か。批判せず、アイデアを出し合う塾。『自分がやらねば』に固執していたオレにピッタリだ。バランスを大切にし、もっと頭を柔らかく、いろんな人にアドバイスをもらいながら、愛される塾。スポーツのように勉強に取り組む塾。競争を楽しめて、実社会を強く生きる子どもを育てる塾。オレはそれを創りたい」。

社長に最後の挨拶をすると、力強い握手で送り出してくれた。恋人に佐賀へ帰る決意を伝えると、涙を浮かべこう言った。「私の夢は、あなたの夢を支えること」。もう迷うことは何もない。二人はバイクにまたがり、佐賀へとエンジンをうならせる。

ブレストの生徒タチ

礼儀と競争の楽しさを教え込む。子どもたちも塾が大好きで仕方ないと言う

もちろん、犬走は当時想像できなかったはずだ。やがてその塾は、人口わずか9000人の小さな町で、100名ほどの生徒が通うナンバーワン塾となることも。かつて夢を語り合ったガキ大将は一級建築士となり、新しい教室を設計してくれることも。恋人は妻となり、愛する子が生まれることも。「さよなら、東京オレはオマエに負けねェーからなー!」―。バイクはいま、関門海峡を越えた。光が見えた気がした。(敬称略)

 

プロフィール

犬走智英 TOMOHIDE INUBASHIRI

ブレスト犬走智英さんプロフィール

1982年、佐賀県出身。生徒の約5割が学年10位以内という地域きっての定員制進学塾・ブレストを運営。剣道や挫折の経験を通じて学んだ「勉強はスポーツだ!」をスローガンにし、また「競争を楽しみ、実社会で折れない子どもを育てる」ことをミッションに掲げている。授業はライブに加え、映像やITを駆使して運営。武雄市の公立中に英語の外部講師として招かれるなど、教育者としての評価も高い。
●WEBサイト
http://www.buresuto.com/
●ブログ「地域NO.1 進学塾ブレストブログ」
http://ameblo.jp/inu-the-husky0802/

『月刊私塾界』2013年8月号掲載