Vol.5個別指導のニーズに対応しながら、
小学生の基礎学力を徹底強化すべき
株式会社 さなる(佐鳴予備校)佐藤イサク 理事長

九大進学ゼミを傘下に収め、個別指導教室の展開、「SCPL 21」の進化形「学トレ」の研究開発強化など、常に飛躍を続ける佐鳴予備校。
現状の課題や今後の方向性、M&Aへの意気込みなどについて佐藤イサク理事長にインタビューした。
個別指導は注目の新興市場
─ まずは、佐鳴予備校と九大進学ゼミそれぞれの現状の教室数、生徒数を教えてください。
5月13日現在、教室数は佐鳴予備校182校、九大進学ゼミ113校です。生徒数は佐鳴予備校約3万2000名、九大進学ゼミ約1万名。前者の生徒数の内訳は、集団授業受講生が2万6500名、個別指導のみの受講生が1100名、高校生が5000名です。
─ 今期(6月末決算)の売上高、経常利益の見込みを教えてください。
売上高は佐鳴予備校が110億円、九大進学ゼミが31億円で合計141億円です。経常利益は佐鳴予備校が28億円、九大進学ゼミが2億円で合計30億円となっています。
─ 個別指導教室を本格的に開講されましたが、手応えはいかがですか。
当初は啓明システム(啓明舎の制作協力を得て開発した中学受験コース)から始め、集団授業・個別指導の併設校舎を含めて20校舎で実験的にスタートさせました。立ち上げから丸2年で、かなりの手応えを感じています。
中学受験に関して言えば、灘中学と麻布中学にダブル合格した生徒もいました。名古屋在住のこの生徒は、夏休みの受講料が30万円にもなるほど、徹底的に中受個別を受講し必死に勉強に取り組んでいました。中学受験市場は、まさに注目すべき「新興市場」といえます
成績上位者は集団中間層には個別を。より明確に差別化
─ 個別指導と集団授業は、どのように差別化されているのでしょうか。
個別指導のみの受講者数と、集団授業と個別指導とを併せ受講している生徒数の割合はおよそ2対1です。個別指導のみの生徒は、ほとんどが新規受講者。従来の「成績上位者が通う塾」というイメージから、成績中位層にも身近に感じてもらえるようになってきました。集団・個別併設校舎を含めると、個別指導の受講生はトータルで2000名を超えます。
静岡県と愛知県の両県で、個別指導の受講生を1万名まで増やすことが当面の目標です。成績中位層以下に対してはきめ細やかな個別指導を展開する一方で、集団授業はあくまでも成績トップ層に特化します。教科書範囲を超えたハイレベルな指導を色濃く打ち出し、成績上位者のための「エリート塾」として徹底的に差別化を図っていきます。
正直に言えば、集団授業一本でここまできた当社にしてみれば、個別指導への進出は不退転の決意ですが、教育も多様性を求められている時代です。幅広い層のニーズに応えられるシステムの構築を図っていきます。
─ 個別指導のコンテンツについて、もう少し詳しくお教えください。
当社のトップ教師による授業を完全映像化した「スーパー授業」と、豊富な問題演習が可能なオーダーメイド学習システム「学力トレーニング(以下、学トレ)」とから構成されています。「スーパー授業」は、開発に4~5年をかけた自信作です。すべて自社で企画・制作・撮影・編集した授業を映像化しネット上で配信することにより、全国どの校舎でもクオリティの高い授業を受講するこができます。また授業料を抑えて提供できるため、保護者の経済的負担を減らすことができるととに、個別指導講師の確保不足を補うことも狙いです。
「学トレ」は、昨年まで「SCPL21」と称していた、コンピューターによるオーダーメイド学習システムを名称変更したものですが、より一層生徒の学力向上に寄与するものにブラッシュアップしていきます。
具体的に言うと、現在70万ページに及ぶ問題群の中から、問題演習を通じて発見された「自分のできなかった問題」のみをピックアップして再履修できるよう、データベースの編集作業を行っています。あと一年半ほどかけてこれが完成すれば、ますます個別指導が進化していくでしょう。
本当に生徒のためになる個別、とは何か? を徹底的に追求していった結果できた個別指導システム、それが「個別パートナー」なのです。
さらには、この「個別パートナー」はえいすうグループにおける自立学習システム「nice」の中でも導入していただいており、今後全国の塾でもご利用いただけるようにしていきたいと考えています。
─ 「See│be」の展開について、現状をお聞かせください。
現在、外部の塾における「See│be」の導入教室数は、おかげさまで400台を突破しまた。NHKエデュケーショナルの制作協力を得て開発したコンテンツの内容もさることながら、導入しやすい価格設定にも好評をいただいており、ありがたいことです。今後、学習塾のみならず私立学校からもご要望があれば、積極的に販売・導入していく予定です。「See│be」は小学生からの評判が非常に高く、中学部への継続受講につながる起爆剤となっています。これまで「See│be」開発にかかった制作費は総額20億円を超えますが、コンテンツ内容については現状に甘んじることなく常に研究を重ね、継続的に改良し、かつ新コンテンツの開発を進めています。具体的には、今後、小学生の理科・社会のコンテンツを増やしてより充実させていきます。
小学生の入塾で、成績中位層の塾離れに歯止めを
─ 中学生の成績中位層における「塾離れ」が全国的に進んでいますが、貴塾ではいかがですか。
10年以上前から「塾離れ現象」が目立ち、生徒数の目減りが起きて、学力の二極分化と中間層の不在に強く危機感を抱いています。何より学ぶことの重要性を説く「啓蒙力」の弱さがネックでしょう。子どもたちはいま、勉強する価値すら見出せないのです。成績下位の子どもたちに今こそ手を差し伸べなければ、日本の将来は本当に末恐ろしいと言わざるをえません。小学生のうちに入塾させて基礎学力を身につけさせることで、真の学力向上が期待でき、退塾率の低下を食い止めることができます。当社では、えいすう総研さんから「パズル道場」を導入しました。小学生低学年の段階か「考えることの楽しさ」を伝えることで、勉強に対する興味関心を持ってもらいたいと考えています。昨年末に愛知県豊田地区で開講し、この夏までに二一校で新規に順次スタートする予定です。

小学生の基礎学力アップに対して、愚直なまでに徹底的に突っ込んでいかなければならないと、多くの社員は使命感に燃えています。中学受験するしないにかかわらず、いずれは大学入試で基礎学力のある中学受験経験者との競争に直面する時が来るのですから。小学生の段階から、大学受験までの一本の道を意識した指導に取り組んでいきます。
塾のM&Aによる異文化の融合には1年~1年半必要
─ 九大進学ゼミにおける、これまでの取り組みと今後の展開をお聞かせください。
「九大進学ゼミの塾名はそのまま残しつつ、2008年1月「株式会社ヒューマンネットワーク」から「株式会社さなる九州」に社名変更しました。この一年、“さなるカラー”を押しつけることなくテコ入れを続けてきましたが、ありがたいことに前オーナー時代の教育のおかげで優秀な社員が非常に多く、むしろ自主的に「さなる化現象」が沸き起こっています。
さなるから社員を送り込むことはいっさいせず、九大進学ゼミの社員を数人ずつ招く一年間の「留学制度」を作りました。さなるから九大進学ゼミに対し、出向負担金として留学生の給与相当額を全額支払います。留学生たちはすぐにさなるの気質に溶け込み、一年間さなるの風土から多くを学び取り、九州に戻ってからは二つの異文化を融合させるべく中心人物として活躍しています。彼らの中からあと一年で“スーパースター”の教師が生まれてくることが楽しみでなりません。
2009年からはいよいよさなるの社員を送り込み、お互いに刺激し高め合っていければと願っています。
異なる文化の融合・定着には、1年~1年半は必要です。地域社会に声が響くのは、さらに来年春~夏頃でしょう。九州エリアでも個別指導のニーズが高まってくることが予想されます。この春、福岡県内で六校舎を新規開校した「進学個別パートナー」を、今後も展開していきます。
塾のM&Aは平和主義による協調路線が正解
─ 塾業界でもM&Aが常態化しつつありますが、これからも積極的に進められますか。
地域に根ざした塾との協調路線でM&Aを進めていくことが得策です。何の足掛かりもなく九州に進出していたなら、投資額はヒューマンネットワークの株式取得額25億円では到底不可能だったでしょう。現状まで築き上げるのも、10年は要したはずです。
さなるが九大進学ゼミから学んだことも多々あります。夏期・冬期講座からの継続率についてはさなるが1~2割で、九大進学ゼミは6~7割を超えます。九大進学ゼミのノウハウから学び、さなるでも今年の夏期講座から実験的に継続率アップ対策を図ります。
─ 中萬学院、えいすうグループとの友好的なご関係をお聞かせください。
相互に株式を持ち合うことにより、“連合体”ともいうべき関係を築いています。三社が連合することにより、今まで以上にお互いの強みを提供し合い、高いシナジー効果を生み出す資本・業務提携が理想形です。いわゆる地方塾である当社にとって、よりグローバルな視点に立った戦略を推し進める契機としたい、そう考えています。
─ 全国の教育関係者の皆さんを奮い立たせる、元気の出るメッセージをお願いします。
やはり、「個別指導が起爆剤になる」ということでしょう。地域のナンバーワン塾になることも大切ですが、ブランド志向が強すぎると他社から成功事例を学ぶという謙虚な姿勢を見失いがちです。利益追求や生徒数の増減を管理する組織づくりが甘いと、危機感が薄くなってしまいます。そうならないためにも、自らの位置を省みる貪欲な姿勢を忘れてはならないと思います。
POINT
- ・世代交代を迎えている塾も含め、積極的にM&Aを検討していきたい









