知らなかったでは済まされない!労務管理の現場から~労務課題事例~

リーマンショックに端を発した、未曾有の大不況。どの企業も利益の確保に必死のなか、財務と税金の知識不足で、本来稼げるはずの利益が妨げられているかもしれません。
また、経営をしていく中で、おろそかにされがちなのが労務の管理。しっかり対策を講じておかないと、何倍ものツケを払わされることになりかねません。
そこで、このコーナーでは経営者はもちろん、これから起業を考えている方にも有益な情報を、本当にあった様々な事例とともにご紹介します!

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従業員の海外赴任について(2)

今回は従業員の海外赴任における給与や社会保険等についての概要をお話しさせていただきます。

海外赴任者の給与と国内給与

(1)海外赴任者の給与

 国内に勤務する従業員へ支給する給与の場合においては、まず総支給額を設定し、その中から社会保険料や税金等を控除したうえで手取額を支払いますが、海外赴任者への給与体系については国内給与とは考えが異なり、まず手取額を設定し、その手取額を基に現地の税金や社会保険料を逆算して総支給額を設定します。

 海外赴任者への給与体系の設定については主に、(1)中小企業方式(別建て方式)、(2)購買力補償方式、(3)併用方式の3つの方式が採用されております。

(1)中小企業方式(別建て方式)

 海外勤務地において対面を保つことができる程度の水準の給与を保障するという考えに基づく方式で、赴任以前の日本で支給されている給与を基礎とはせず、全く異なる方法により海外基本給を設定します。

 具体的には、会社が勤務地における必要経費を調査し、基本給を設定する方法や、大手商社が発表する資料や同業他社の動向などを参考にして基本給を設定する方法が考えられますが、自社独自で現地生計費を把握するのは難しいため、現実には同業他社水準を参考にしながら基本給を設定するケースが多いと考えられます。

 中小企業方式の採用には、一度適切な海外基本給を設定できれば毎年の物価変動に見合う調整だけで良いというメリットがありますが、同業他社水準等を参考にして基本給を設定するケースが多くなるため、基本給の設定根拠が曖昧になる傾向にあり、赴任者の経済事情の変化によって給与引上げ等の要請に応じざるを得なくなるというデメリットがあります。また、海外の2ヶ所以上に進出されている、または進出される予定がある場合は、使いにくいかもしれません。

(2)購買力補償方式

 近年の主流となっている方式であり、日本での生活水準を勤務地でも維持するという考え方に基づき、日本国内勤務時の給与から所得税や社会保険料等を差し引き、生計指数等を乗じたものを現地通貨に換算して支給額を決定します。

 具体的には、月額の総支給額や基本給から社会保険料や所得税額を差し引いた額により日本国内においての生計費を決めます。そのうえでコンサルタント会社等が都市別に発表する「生計費指数」と「為替レート」を乗じて海外基本給を決定します。(あるいは、自社で生計費指数の算定根拠を作るというケースもあります。)

 購買力補償方式の採用には外部機関の客観的な資料を用いるため、赴任者への根拠の説明がしやすいことや社内で費やす労力を抑えること等のメリットがありますが、ここでの基準となる「購買力」は一般的な購買力を補償しているため、実際に赴任者本人の購買力の実態を補償しているのかという疑問や「生計費」についても実際に本人の家族構成を反映しているかという疑問が発生するデメリットがあります。

(3)併用方式

 主に中小企業に多く採用されている方式で、日本勤務時の月額の手取額をそのまま海外基本給とし、海外勤務では国内勤務に比べ生活費が多く発生するため、国内で支払っていた給与に加え手当を支給するという考えに基づき、海外基本給に加え家族手当や海外勤務手当、ハードシップ手当、子女教育手当等を支給します。

 日本での給与の手取額をそのまま海外基本給として海外勤務に伴う追加コストを別途支給するという分かりやすいシステムのため、海外勤務者にも納得を得やすいというメリットがありますが、海外基本給が円建てになるため、赴任時に現地通貨に換算して海外基本給を決めておかないと為替レートの変動に応じて海外基本給の額が変化してしまうというデメリットがあります。

(2)国内給与

 海外勤務中であっても日本の社会保険料の支払いが継続する場合には、国内社会保険料や国内に残留する家族の生計費などの費用が留守宅手当として国内で支給されます。海外赴任者へ支給される国内給与とはこれらの給与のことであり、多くの会社で支給されております。

 ただし、きちんとした基準や出向協定書を準備しておかなければ、寄付金課税を受けるというケースも発生していますので、十分にご注意ください。

海外赴任者の各種保険関係

 社会保険については原則として赴任する国の社会保険制度に加入する必要がありますが、日本の社会保険制度への加入を継続する場合においては、転勤や在籍出向の場合であっても、原則として日本の会社から賃金が一切支払われていない場合は、出向元との雇用関係は継続していないと判断され、日本の健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格の継続は困難となり、資格を喪失しなければならない可能性があるため注意が必要となります。

 一方、日本の会社から一部または全部の賃金が支払われている場合は、出向元との雇用関係は継続しているものとみなされるため日本の健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格を継続することができます。健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格が継続している以上、保険料の負担は毎月発生することになり、毎月の保険料の算定となる社会保険の報酬月額は原則として国内から支給されている給与で決定されます。

 国内給与として賃金の一部のみが日本の会社から支払われている場合、保険料の負担は国内で勤務していたときよりも少なくなると思われますが、厚生年金保険の標準報酬月額も低くなるため、将来受給できる年金額は国内勤務のみの場合と比べると低くなる可能性がありますので注意が必要です。

 医療費に関しては、海外赴任の場合、民間の海外旅行障害保険を会社がアレンジするケースも多く、医療費はおおむね民間保険でカバーできると思われますが、海外の医療事情では、歯科治療等に民間の保険が効かない場合が多いため、内容に応じて民間の保険と健康保険の療養の給付を使い分けて利用することがベストであると思われます。

 また、労災保険に関しては、原則として日本国内の業務に対して適用されるため、海外赴任者の現地での業務災害については労災の適用がありません。通常は、現地の災害補償制度の適用を受けることになりますが、海外の災害補償制度における適用範囲や給付内容は、日本の制度と比較すると必ずしも十分でない場合もあることから、海外に派遣された従業員についても日本の労災保険の給付を受けられるようにした「海外派遣者の特別加入制度」を利用し、海外赴任規程においてもその旨を規定しておくことが望ましいと考えられます。

その他(福利厚生・費用・休暇・服務規律等)

 海外勤務者の福利厚生については、手厚く規定している会社もあれば全く規定をしていない会社もあり、各社によってそれぞれの定めをしております。また、赴任支度料や一時帰国等に係る費用についてや海外赴任者の休暇についても規定しておく必要があります。海外赴任者に一律の基準で定めてしまうと実態にそぐわないケースも出てくる可能性があるため、独身者と既婚者で適用範囲を分けるなど出来るだけ実情に合わせた規定にする必要があります。

 以上、2回にわたり海外赴任についてのお話をさせていただきましたが、会社として各種手続や赴任地の実態調査、規程等の整備、従業員への説明等をきちんと行い、海外へ赴任する従業員の方が安心して働くことができるように、会社としてサポート体制を整えることが大切になります。

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著者プロフィール
篠田 真

社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ
社会保険労務士

中小企業の海外進出や外国人の税務・労務に関するコンサルティングを得意とするガルベラ・パートナーズ・グループの社会保険労務士法人に所属し、労務コンサルタントとして外資系企業を含む数多くの中小企業の労務管理、給与計算、就業規則の作成などを行っている。
また、成長企業の労務コンプライアンス監査や人事評価制度の構築も手掛ける。
関連会社として、税理士法人、法律事務所、中国現地法人、中国語教室などがある。


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