Category: 月刊私塾界

著名人に聞く|太田 英基 氏

思考の枠を世界に広げれば、人生の可能性は無限に広がる。s_m

「グローバルにビジネスを展開するとは、どういうことか?」一人の大人の問いが、時代の最先端を走っていた若者の人生を変えた。世界の人口は、70億人。世界の広さは、日本の約400倍。生きる舞台を世界に変えたら、人生はもっとおもしろくなる。

 

やりたいことは待っていても見つからない

東北の温泉町で生まれ育った僕にとって、東京は憧れの街でした。将来、経営者になりたいという漠然とした夢を持っていた僕は、都内にある私立大学の経営学科へ進学。これから始まる大学生活に胸を膨らませていました。

ところが、入学早々いろいろなサークルに参加してみたものの、どこにいても中途半端で、自分の居場所を見出せず… 。大学の授業も退屈で、新生活のモチベーションは下がっていくばかり。「大学生になったら、やりたいことが見つかるはず!」という根拠のない期待は、上京してすぐに砕けてしまったのです。

その時に思ったのが、「やりたいことは、自分から動かなければ見つからない」ということ。ならば、どうやって自分のやりたいことを見つけようか? そう思っていた時に手にしたのが、1枚のチラシでした。

仲閒と立ち上げた「タダコピ」

それは、学生だけで経営をしている小さなバーの求人でした。経営を学びたいと思って進学したものの、大学の授業では物足りなかった僕は、経営のノウハウを実践的に学ぶために、その仲閒に加わりました。s_3

その後、仲閒の一人と「タダコピ」を企画。「タダコピ」とは、コピー用紙の裏に広告を載せることで、コピー代をタダにするサービスで、「コピーを無料でしたい大学生」と「大学生に広告を届けるスペースが欲しい企業」をマッチングさせたもの。今では、全国160以上の大学でこのサービスを展開していますが、はじめから事がスムーズに運んだわけではありませんでした。

僕たちは、まず、ゼミの活動の一環として、トライアルコピー機を1台、大学に置いてもらうよう交渉しました。広告は大学の近くにある飲食店などにお試しとしてお願いをし、実際のコピー代は自分たちが負担をしました。こんなものが本当にビジネスになるのだろうか…? ところが、2週間の約束で試した8千枚のコピー用紙が、わずか1週間でなくなってしまったのです。トライアル期間中、僕たちは200人近くの学生にアンケートを取りました。紙質がイマイチ、裏の広告が透けるのがイヤなどの意見はありましたが、「このサービスの継続を希望するか?」という質問には、すべての学生からYESの回答があり、僕たちは確かな手応えを感じました。

その後、あるビジネスプランコンテストで最優秀賞を獲得したのを機に法人化し、さまざまなメディアに取り上げられたこともあって、事業は順調に拡大していきました。その頃の僕は、東京で、時代の最前線を走っている学生起業家と思い込んでいるところがありました。

僕の考えを一変させた本当の「グローバル」

そんな僕に、これまでの価値観を一変させる出来事がありました。起業して1年が過ぎたある日、友人に誘われて少人数の勉強会に参加しました。講師は、アメリカのコンサルティング会社・マッキンゼー&カンパニーの東京支社長を務めていた横山禎徳さん。横山さんの提案で、活動的な大学生を集めて話をしたいということで、幸運にも僕に声がかかったのです。集まった学生は7人。学生起業家、NPO理事など、当時の学生にしては、なかなかの活動的なメンバーでした。

そこで、横山さんは突然こんな質問をしたのです。「グローバルにビジネスを展開するとはどういうことか? 分かる人は?」

僕は自信を持ってこう答えました。「良いアイデアが浮かんだら、まず東京でやってみる。東京でうまくいったら、大阪、名古屋へ。東名阪でうまくいったら全国展開をし、日本でうまくいったらアジア、アメリカと広げていく。これがグローバルにビジネスを展開することだと思います。」

ところが、横山さんはキッパリこう言いました。「それは、多くの日本人の発想だが、違う。本当にグローバルに動いているビジネスマンは、良いアイデアを浮かんだら、『それが地球のどこで求められているのか』をまず考えるんだ。例えば、Aというアイデアが思いついたら、日本人には必要ないかもしれないけれど、メキシコ人には必要とされているかもしれないと思考する。例えば、ブラジルで流行っているBというサービスをイスラエルに持っていっても通用するのではないかと思考するんだ。それが、世界を舞台に、グローバルにビジネスをすることなのだよ。」

僕は自分の発想の乏しさに愕然としました。僕がこれまで「たくさんの人」と思っていたのは、日本という小さな国だけに限られていたことに気づかされました。

世界には、自分の知らない世界があった

実際、僕は世界でビジネスをする土俵にさえ立てていなかったのです。日本でタダコピが広がり、いよいよ上海へ! というチャンスをもらった時、僕らは自分たちのアイデアには自信があったけれど、それをアピールする語学力がなく歯がゆい思いをしたことがありました。その時、改めて痛感したのが、英語力の必要性です。

けれど、僕が実際に行動を起こすのは、それから2年も経った24歳の時でした。30歳になった時、どんな自分でありたいか? を考えたのです。そこで出てきたのが、「世界を舞台に活躍できる人間になりたい」という目標でした。そのために、今何をするか? を考え、挙がったのが次の3つです。

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①英語力
②世界中に仕事の相談もできる友達を作る
③世界中のリアルを自分の目で見て知る

そして、それらすべてを実現できるものとして浮かんだアイデアが、「世界一周の旅」だったのです。旅といっても、僕の場合は、その国で暮らす人についてもっと知りたいという気持ちが一番だったので、そのコミュニケーションツールとして英語は必須でした。そこで、まずフィリピンで3カ月間、英語を集中的に学びました。それから、バックパックに旅の衣類の他にスーツと革靴を詰め込み、「カウチサーフィン」という世界に550万人以上のユーザーがいるコミュニティーサービスを利用して、各国で会いたい人にアポイントをとり、世界を知る旅に出ました。2年間かけて訪れた国は、およそ50カ国。苦手だった英語を克服し、世界で暮らす1000人以上の人々と交流し、世界のリアルを肌で感じました。なかでも僕を刺激してくれたのは、自分の意志でその国を選び、そこで働いている同世代の日本人でした。

僕はゆとり教育が始まった頃に学生時代を過ごし、社会に出た時は不景気、就職難とネガティブな時代でした。グローバル人材の必要性も、「このままでは日本がヤバイ」という観点から言われ続け、だからこそワクワクできなかった。けれども、既に世界で活躍している先駆者たちは、みんなそれなりに苦労は経験しているけれど、日本を飛び出したことで、間違いなく人生の可能性が広がっているように感じたのです。そして、僕自身も、世界に飛び出たことで、自分の可能性が広がりました。

若者よ、世界を目指せ!

帰国後、僕はフィリピン語学留学での経験を生かし、留学クチコミサイトを立ち上げました。フィリピンで英語を学ぶことは、読み書きよりも、話す・聞くが苦手な日本人に最適なマンツーマンレッスンであること、物価や人件費が安いフィリピンだからこそ実現するコストパフォーマンスなど魅力はいくつかありますが、僕が勧めているのはそれだけではなく、そこで習得した英語をぜひ世界で活かして欲しいという思いがあります。s_2

フィリピンに滞在している時、こんな出来事がありました。僕はフィリピンで広告会社の仕事をしている23歳の若者たちと仲良くなり、彼らとお茶をしていました。その時、「転職について」の話題が出たのですが、彼らから出た言葉は、「俺は数年以内にイギリスに行きたいね!」「イギリス? 僕は香港かシンガポールだな。中国もおもしろそう」といったもので、国内ナンバーワンの広告会社への転職か、違う業界への転職を望んでいるのかと思っていた僕は、彼らの視野の広さに驚きました。彼らにとっての転職は、「どこの会社で」ではなく、「どこの国で」だったのです。

でも、今の僕は彼らと同じ思考を持っています。今は日本人向けの留学クチコミサイトですが、フィリピンには日本人より遙かにたくさんの韓国人が英語を学んでいます。こうした人たちの生の声を拾っていけば、クチコミサイトはより最新のリアルな情報を発信することができる。また、日本人や韓国人以外の国でも、英語を学びたい人はいるはずです。そう考えていけば、このビジネスはどこまでも可能性を広げていくことができるのです。

しかし、今の若い世代は、そういうやり方があることを知らずにいます。けれども、それは彼らがダメなわけではない。そういう生き方があるということを伝えてこなかった大人たちの責任だと僕は思います。だから、僕は大人の一員として、次の世代にはしっかりと伝えていきたいんです。これから頭の中に描く地図を、日本地図から世界地図に塗り変えていこう、可能性を拡げようって。日本がヤバイからではなく、世界がオモシロイから僕らは動いていくんだと。そう、僕は伝えていきます。

〈プロフィール〉
株式会社スクールウィズ 代表取締役 太田 英基(おおた・ひでき)

1985年、宮城県蔵王町出身。中央大学卒。大学2年の時に、ビジネスプランコンテストで最優秀賞を獲得し、株式会社オーシャナイズを仲閒と共に起業。広告事業「タダコピ」を全国の大学に広げる。丸5年働いた後、フィリピン英語留学を経て、「若者のグローバル志向の底上げ」を使命に、「サムライバックパッカープロジェクト」を立ち上げ、世界一周の旅へ。約2年間、50カ国を旅しながら、現地で働くビジネスマンを中心に1000人以上と交流する。帰国後は、講演・執筆活動をしながら、フィリピン留学のクチコミ情報サイト「School With(スクールウィズ)」を立ち上げる。

 

(取材・文/石渡 真由美)

月刊私塾界2014年4月号(通巻396号)

巻頭言

2014_04_hyoshiインドと中国が新たな人材供給源になるという。両国の人口の多さが一因だが、更に重要な要因がある。「インドと中国の学生がなにを学んでいるかという点だ。欧米の学生が学ぶジャンルが人文系の学問や芸術なども含めてきわめて多岐にわたるのに対し、(中略)中国やインドの学生は理工系の学問を勉強するケースが非常に多い。2008年、インドと中国はそれぞれ、エンジニアリングとコンピュータ科学の分野で大学院修了レベルの学生をアメリカの二倍生み出した。同じ年、アメリカでエンジニアリング分野の修士号を取得した学生の40%、博士号を取得した学生の60%が外国人で、そのほとんどがインド人と中国人だった。」(リンダ・グラットン著「ワーク・シフト」)
韓国でIT関連産業が発展したのは、大学等で理系分野を学ぶ学生に対し、懲役義務を大幅に緩和したためだと云われている。
国家の方針として、何等かのインセンティヴを設けている。
我が国はどうだろうか。先ごろ文部科学省が大学設置認可後の「設置計画履行状況調査」を実施し、惨状を報告した。曰く、半数の大学で教員数が設置基準に満たない、英語の授業でbe動詞の基本的英文法を教えていた等々。 彼我の差があまりにも大きい。
お上に任せておいて良いのだろうか。個々の学習塾が、または業界全体として、大きな志を抱き、未来の絵を描き、それを担う人材を輩出することに努めなければならないのではないか。幕末の「時」のように。

(如己 一)

目次

<<特集>>
    • 今こそ集団授業
    • 2014年度 首都圏中学入試を分析する
    • 下村博文 文科大臣緊急インタビュー

教育改革の推進状況と、これからの展望について

  • 株式公開企業塾 2014年度 第3四半期決算を読む
<<TOP LEADER>>

株式会社成学社 開成教育グループ 代表 太田 明弘 氏

<<シリーズ・著名人に聞く>>

思想家、神戸女学院大学 名誉教授 代表取締役 内田 樹 氏

<<石田 淳のケイゾクはチカラなり>>

ゲスト 小針 一浩 氏 株式会社スターブランド 取締役

<<連載>>
  • NEWS ARCHIVES
  • 学習塾の空間づくり  個別指導学院ヒーローズ府中校(東京都府中市)
  • 疾風の如く〜個別専門学習塾Wi☆Go個別(岐阜県)塾長 高橋 実太郎さん
  • 新米塾長のための部下とサシで行きたいごはん屋さん
  • 会社を建て直すためのリーダー養成塾
  • 挑む私学 大阪偕星学園高等学校
  • 新米塾長のための 学習塾経営基礎講座
  • 論点2014 複雑化する承認欲求
  • 千里の道も一歩から ~編集長備忘録~
  • 日本教育ペンクラブ・リレー寄稿
  • challenge~進化形jukuのカタチ〜市川塾
  • 芸術見聞録
  • 中学生からの子育てスクランブル
  • 井上郁夫の教室指南
  • 林明夫の「21世紀の地球社会」
  • 高嶋哲夫の「塾への応援歌」
  • 未之知也(いまだこれ知らざるなり)
  • 編集後記
  • Book Review
  • 塾長のためのガジェット講座

TOP LEADER Interview|成基コミュニティグループ 代表 佐々木 喜一 氏

「世界中の人々を幸せにする人財輩出機関 日本一」を目指して。メイン_1139

2012年に創業50年という大きな節目を越え、次なる50年へのスタートを切った『成基コミュニティグループ』。代表の佐々木喜一氏は、教育再生実行会議の委員にも選ばれた塾業界のリーダー的存在である。日本のため、ひいては世界のために、教育改革に手腕を振るう佐々木氏に、成基コミュニティグループとしての新たな取り組み、そして、これからの教育の在り方について伺った。

50年目の決意を「成基100年構想」に。

2012年10月の創業50周年記念式典にて発表された『成基100年構想』についてお聞かせください。

「成基コミュニティグループ(SCG)の中で最長の歴史を有する成基学園は1962年5月4日に創立し、2012年で50周年を迎えました。創立50年の企業の生存率というのは、民間の信用調査会社・帝国データバンクの『法人の経年生存率』によれば、わずか0・7%に過ぎません。1万社に換算すると70社しか生存していないことになります。さらに創立100年ともなれば0・03%と、たった3社しか残っていません。
SCGが100周年を迎えるためにはどうしたらいいか。というと、もう日本一を目指していくしかない。それなら、どんな日本一を目指したらいいだろう。それが『成基100年構想』の発端でした。
社員一人ひとりが、どんな分野で日本一を成し遂げたいのかを真剣に考え、結果、3427もの構想が結集。それを私たちのグランドミッションに照らし合わせて精査し、ゆるぎない目標として結晶化させたのが、10年後までに実現する9つの項目、30年後までに実現する2つの項目。そして、50年後の100周年までに『世界中の人々を幸せにする人財輩出機関 日本一』の実現なのです」

──グランドミッションというのは何でしょう。

「ピラミッド型の『価値基準の概念図』を見てください。その最上位に位置づけられる一つがグランドミッションです。SCGは何のために存在しているのか、といった時の依って立つところであり、道に迷ったりした時の戻るべきベース。いわゆる経営理念にあたるものですね。TOP LEADER_03_03

グランドミッションは、創立者佐々木雅一によって記された設立趣意書の理念を受け継ぎ、こう制定しています。『私たちの大いなるミッション(使命)は、地球・国家・地域レベルの様々な課題に対して「人づくり」という観点から問題解決を図ることである。そして、自立した人間として、仕事を通して人に喜びや感動を与えられる能力を高め、感性豊かな本物の人間になるため、自ら鍛え上げることである』と。

いま地球レベルの課題というと、地球温暖化などの環境問題、格差や貧困や紛争といった南北問題があります。これは私たちが直接解決できる問題ではありません。けれども、そういう課題を解決できる人をつくっていくことはできる。単に難関中学校に受かったとか、高い点数を取ったとか、それは子どもたちのゴールではない。世界のため、日本のため、地域のため、より多くの人のためになるような高い志を持って未来へ向かっていけるような子どもたちをサポートすることが私たちのミッションなんですね。
そのミッションに基づいて、顧客となる保護者様とバリューを共有し、『成基100年構想』といったビジョンを描き、それを達成するための方針を打ち立て、行動していく。全体を仕組み化して行動をデザインすることで、着実に向かうべき方向へと進むことができるのです」

社員一人ひとりにも、それぞれの使命がある。

──グランドミッションの他にもミッションはあるのですか。

「もう一つ、パーソナルミッションがあります。自分は何のために生き、何のために働いているのか。社員一人ひとりが深く探求して明確化した個人のミッションですね。
ふだん、私たちは自分の見える範囲、行動する範囲で物事を完結させようとして、地球の裏側で飢餓で苦しんでいる子どもがいようが、戦争をしていようが、自分は関係ないという発想になりがちです。『シンク・グローバル アクト・ローカル』という、グローバルな視点に立って身近なことから行動しようと考えた時、自分らしく命を燃やせるものは何なのか。それをワークショップを通して設定していきます。
パーソナルミッションができると、今までには到底得られなかったブレークスルー、言い換えると『奇跡』を生むことができる。逆に、ミッションが明確になることで、できていないことも明確になってブレークダウン、つまり落ち込んだりすることもある。それでもワークショップを終えたほとんどの社員は、すっきりしたと言ってくれるんですよ。
他人から、こうしなさいと言われてやったことは責任をとらなくなるけれど、自分の深いところから出てきたものに基づいて行動すれば、そうはなりません。何のために仕事をするのかというと、自分のミッションを達成するため。仕事は自分のミッションを達成するためのツールなんです。時には、SCGでは達成できないミッションになることもありますが、それはオッケーです。そのミッションに従って会社を辞めることになったとしても、『卒業』として温かく見送りたいと思います」規範意識の確立へ。大切なのは「7S」と「4J」。

──政府の教育再生実行会議に参加されて、どんな実感をお持ちですか。

「安倍首相と下村文科大臣が強力なリーダーシップを発揮し、いま政府は『教育再生』を急ピッチで進めようとしています。その最も重要なキーワードとして掲げられているのは『グローバル人材』、そして『世界に誇れる学力の育成と規範意識の確立』です。
2009年に(財)日本青少年研究所がまとめた『中学生・高校生の生活と意識報告書』の中に、とても興味深い調査結果があります。『自分はダメな人間だと思いますか?』という質問には、日本の中学生は56%、高校生にいたっては65・8%と、アメリカ・中国・韓国にくらべかなり高い割合で、ダメだと思っているのです。また、世界の中学生を対象としたOECD等の調査によると、日本・アメリカ・中国・韓国・EUの中学生に『親や先生を尊敬していますか?』と質問したところ、アメリカ・中国・韓国・EUでは80%以上が『尊敬している』と答えたのに対して、日本の中学生はわずか20・7%にとどまっています。成基の生徒に同様の調査をおこなったところ、アメリカ・中国・韓国・EUの中学生より高い88・2%でした。日本の教育が抱える問題の根源は、この低い規範意識にあるのだと思います」

──規範意識を確立するために取り組まれていることはありますか。

「規範意識は一朝一夕に確立するものではありません。SCGには創立以来、塾に入る前には門標会釈、授業がはじまる前には合掌・黙想といった作法を通して頑張る気持ちや、勉強ができる環境や家族への感謝の気持ちを心に刻んできました。『成基の7S』と呼ぶ、整理・整頓・清掃・清潔・仕組み・しつらえ・躾の徹底もその一環です。
さらに、『自分はダメな人間なんかじゃない』という自己肯定感、『自分は尊ばれるに値する』という自尊心、『これだけのことをやった』という自負心、『やればできる』という自信。この『4J』を人格の基として、日々の授業の中での小さな成功体験を通じてしっかり形成しています。成基は、まさにお子さまの『成功基地』なのです」

未来の日本代表を育む「アップ・ジャパン・プロジェクト」。

──グローバル人財の育成、これからの教育についての改革や取り組みをお聞かせください。

「今の子どもたちには志がない。先生自身に志がないから、子どもたちが持つわけがないのですが、『志教育』こそ一番大事なことだと私は思います。志は夢とは違います。例えば、〝フェラーリに乗りたい〞というのは夢であって、志ではありません。ベクトルが自分のために向かうのではなく、世のため人のためになったときにはじめて志になるのです。それをイメージ化したものが、2020年をターゲットにした『アップ・ジャパン・プロジェクト』です。『君は日本の代表なんだ。』をキャッチコピーに、自分は何の分野で日本代表を目指すのか、志のフラッグを掲げようという発想です。何も英会話ができることだけがグローバル人財じゃない。日本の伝統文化やサブカルチャーを伝えることも、あいさつがしっかりできることもグローバル人財には必要な要素。それぞれに異なる分野で突き抜けていく、子どもたち一人ひとりが主役なのです」

──民間教育と公教育との連携という部分についてはどうお考えですか。

「日本のためになるということは、究極は世界のためになることだから、公教育では動ききれない部分はサポートしていこうと思っています。そのコアとなるのが語学。国は小学5、6年生の英語授業を週3回に増やすと言っていますが、週3回の授業ではネイティブな語学力は到底身につかないでしょうし、しかもそれは2020年からの話。公教育では北海道から沖縄までレベルを押し並べなくてはいけませんから、まずは教師の育成のために7年間の猶予があるわけですね。今年の小6年生から大学入試はTOEFL等になるというのに、7年後からのスタートでは受験に備えられません。そういう時こそ、私たちの出番。そこに新しい私教育のビジネスがあります」

月刊私塾界2014年2月号掲載

 

月刊私塾界2014年3月号(通巻395号)

巻頭言03_001_hyoushi

昨年、ヒッグス粒子の発見がノーベル物理学賞を受賞した。これにより素粒子の基本理論である「標準模型」が完成する。

ところが、それでも宇宙の構成物質の4.9%が解明されたに過ぎない。残りは未解明である。内訳は、ダークマター(暗黒物質)26.8%、暗黒エネルギー68.3%。このダークマターを発見するために、各国が競っている。

日本でも、岐阜県神岡町にある鉱山跡地地下1千メートルに、検出装置を造り、発見への挑戦が始まっている。「XMASS実験」だ。村山斉東大カブリ数物連携宇宙研究機構長は、2020年までにダークマターの正体が解明でき、最初の発見者になる可能性があると語る。世界の最先端を行く。

地方教育行政の最終的な権限を、教育委員会から首長に代えようとしている。昨年12月、中教審が答申を出した。文科省は今通常国会に改正案を提出する方針だ。

教育委員会制度の三原則(政治的中立性、継続性・安定性、民意反映)が精緻に論議されぬまま、政治的妥協案として出された結論である。首長の権限が大きくなることにより、政治的中立性や継続性が保てないことは、公立高校入試制度の変遷をみれば、わかる。首長が直接指示できる事項をある程度制限したことで、政治決着させた。何と情緒的なことだ。

翻ってヒッグス粒子の発見は、1秒に10億回発生する陽子の衝突データを、何年にも渡り集積、解析した実験結果である。それでも精度は、99.98%。この相違に呆れる。

(如己 一)

目次

<<特集>>
  • 塾の地域貢献
<<TOP LEADER>>

中萬学院グループ 代表取締役社長 中萬 隆信氏

<<シリーズ・著名人に聞く>>

株式会社ユーグレナ 代表取締役 出雲 充 氏

<<石田 淳のケイゾクはチカラなり>>

ゲスト 前田 出氏 株式会社未来デザイン研究所

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月刊私塾界2014年2月号(通巻394号)

巻頭言

02_001_hyoushi

安倍政権に替わってから、株価はほぼ二倍になった。経済政策への期待感から、まだ政策的には何も示されないうちから、世の中が明るく変わった。まるでそれまでの「失われた20年」が嘘のように。実体が何も分らないまま、人々の気持ちだけが掌を返すように変化してしまったことに、大きな不安を抱く。
 大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略からなる「アベノミクス」の「三本の矢」は、放たれた。そして幸運―強運―にも、富士山が世界文化遺産に登録され、2020年東京オリンッピク・パラリンピックの東京招致が決定し、和食が無形文化遺産に登録された。世の中のムードが改善されたことは、事実だ。
 しかし、それに浮かれていてはならない。「三本の矢」で明確な効果を挙げているのは、大胆な金融政策だけではないだろうか。デフレ経済を克服するためにインフレターゲットを設定し、それが達成されるまで日銀が実施する大胆な金融緩和措置だけではないでしょうか。特に三本目の矢である民間投資を喚起する成長戦略は、何の成果も挙がっていない。
 我が国経済は成熟しており、今後大きく成長することは難しいであろう成長戦略に指定されている医療や教育の分野は、本来競争より公共を優先すべきものではないだろうか。少子高齢化、人口減少社会が急速に進む今、公共的な領域の整備が急務と考える。「共生」を軸に社会を再構築することが必要だ。「3・11」や「フクシマ」は忘却の彼方へ行ってしまったか。
 義務教育においても過度な競争ではなく、「共生」が重要ではないか。

(如己 一)

目次

<<特集>>
  • 株式公開企業塾2014年度中間決算を読む
  • 私塾界プレミアムセミナー2013レポート
<<TOP LEADER>>

成基コミュニティグループ 代表取締役会長 佐々木喜一 氏

<<シリーズ・著名人に聞く>>

株式会社スクールウィズ 代表 太田 英基 氏

<<石田 淳のケイゾクはチカラなり>>

ゲスト鎌田 洋 氏 株式会社ヴィジョナリー・ジャパン 代表

<<連載>>
  • NEWS ARCHIVES
  • HOT TOPICS1〜圧倒的な規模と質の高さを実現する上海の教育機関を視察
  • HOT TOPICS2〜成基が洛南小の教諭を招き入試分析会と教育講演会
  • HOT TOPICS3〜さまざまな立場から、その必要性が訴えられた公設民営学校
  • 近況を聞く 株式会社聖文館(若松塾) 井沢 伸平 副理事長
  • 学習塾の空間づくり  (26) Clantete(東京都港区)
  • 疾風の如く55〜DNA seminar(熊本県) 塾長 寺本 大策さん
  • ステキ★塾女発見!  働く女性のロールモデル? 私がそれになります!
  • 新米塾長のための部下とサシで行きたいごはん屋さん
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  • ホントにあった 個人塾経営再建物語
  • 論点2014 説明できますか? グローバル人材とは何か?
  • 千里の道も一歩から ~編集長備忘録~
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TOP LEADER Interview|株式会社ナガセ 永瀬昭幸社長

去る5月16日、東進衛星予備校全国大会の「第20回記念大会」にて新たな決意を表明された、永瀬昭幸社長に、東進衛星予備校をはじめ、東進ハイスクール、四谷大塚、東進こども英語塾、イトマンスイミングスクールなど、さまざまな角度から教育に専念してきた観点から、さらに深く話を伺った。

独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する
株式会社ナガセ 永瀬 昭幸社長

自ら求め自ら考え 自ら判断・実行する 生徒を育てる

株式会社ナガセ・永瀬昭幸社長

―――ナガセグループ全体の教育目標=企業目標である「独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する」 具体的にはどんな取り組みをされているのですか。

「わたしたちは、『独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する』ことを教育目標としておりますが、独立自尊とは、自らの人生について信念を持ち、プライドにかけて決めたことを完遂することであると考えています。具体的な生徒指導では、まず生徒自身が、何をどのように勉強するのか自分の頭で考え、計画を立てる。もちろん、我々は生徒が考えたり計画するための材料はたっぷり与えますし、いつまでにそれをやるのか締切を決めて、ちゃんとやるように励ます。生徒の考えや計画が正しかったかどうかは、模擬試験の成績などから、生徒が自分で考えて、問題があれば計画を変更します。そうして自分の責任で、自ら求めるという職場をつくることで、独立自尊の精神が育まれるわけです」

―――”心の教育”に取り組まれて5年目になります。

「これまで長く教育に携わってきてわかってきたのですが、「受験に王道はない」という言葉の通り、志望校に合格しようと思ったら、徹底的に努力をするしかない。だからといって、誰かに強制されて勉強をしても学習効果は低く、目の前の受験に勝てたとしても将来につながりません。一方、自ら求め、自ら考えて勉強すれば取り組みの成果は飛躍的に高まります。自ら求め、自ら考え、自ら判断・実行する生徒を育てるためには、生徒の心をしっかりと鍛えていく必要があると考え、そういう方向でやってきたことが、ここまで成長できた要因だろうと考えています。

先日、雑誌で東大合格者のインタビュー記事を見ましたが、東進出身の生徒は皆、しっかりと未来を見据えて、自らの志や夢を語っていました。あれには私も嬉しくなりました。夢は、努力をするための原動力だと思います。しっかりとした心が備わっていれば努力を継続できるし、私たちの取り組んでいる”心の教育”は、感度のいい子ほど影響を受けていきますから、まずは感度の良い生徒を自ら求める状態に変えていく。そのうえでだんだん”心の教育”が多くの生徒に浸透していけばいいなと思っています」

応用力を身に付け、予習と復習のバランスのとれた学習指導を

四谷大塚の新「予習シリーズ」

四谷大塚の新「予習シリーズ」

―――四谷大塚の予習シリーズが今年改訂されました。大きなポイントとしてどんなことがあげられるでしょう。

「生徒に大きな夢、高い志を持たせ、自ら求める心、自ら考えて勉強に取り組む習慣を身につけさせるには、高校3年間だけでは不十分で、小学校の頃から取り組む必要があると考えています。たとえば、私は、人に教わったことだけを復習して、解答のパターンを丸暗記するだけでは、将来自らの頭で考えて社会で活躍できる人間にはならないだろうと思う。それだけではなく、自分で一生懸命予習して、自分の頭で考えて問題を解いていくという訓練も大切だと思います。もちろん、成績がよくなかった単元の欠点を是正する必要もありますから、予習至上主義でも、復習至上主義でもよくないと考えています。今回の予習シリーズ改訂は、どちらもバランスよくやって、しっかりわかった上で次の単元に入っていくといったカルチャーに切り替えようという試みなんですね。

まず、その5年生の3月までに受験の課程を全部修了させる。そして、6年生の1年間をかけて、それに対する応用力をつけながら志望校対策をしっかりする。基本的には”スモールステップ・パーフェクトマスター”の考え方です。自分にぴったりのレベルからステップアップし、習ったことを確実にマスターする。けれども、勉強というのは面白いもので、はじめて学んだときは多少わからなくても、先の段階へ行って振り返ってみると、こういうことだったのかと理解することもけっこう多い。広い立場からものを見てみると、かえってわかりやすいこともありますから、基礎基本を徹底的に身につけながらも、応用力の高いことも一緒にやっていきます。同時に、毎週行う〝週テスト〞で、授業で学んだ内容を復習する。この取り組みは、どんどん底力が付いてくると思いますよ」

日本の将来のために、世界で活躍できる人財を育成

―――文科省を中心に教育再生実行会議が立ち上がり、入試制度などでの大学改革も進んでいくかと思います。そうなると教育の仕方も大きく変わっていくのではないでしょうか。

「まず大切なことは、”このような人間を育てるんだ”という大きなビジョンを描くことだと思います。そのうえで制度の変化に対しては、積極的に手を打っていきたいと思います。こども英語塾ではすでに、小学生の段階から他の教科も 全部英語で教えることもしています。英語は、一つの科目として学ぶだけではなく、数学や理科や社会も英語で学ぶことで、本当に使える英語になっていくと思っています。

東進USAオンライン講座にしても、時差による弊害を取り払った仕組みを作り上げましたので、全国の塾のみなさんにも提供させていただきたいと思っています。「何を使って英会話を勉強するか」と考えるとき、金額が安いかどうかで決めるのは、私は邪道だと思う んです。言葉というのはカルチャーですから、アメリカのカルチャーを学びたいのであれば、アメリカのネイティブと話をすべき。旅 行で話が通じるということだけで満足されるのであればそれでけっこうですが、ビジネスでは一切通用しませんから。ビジネスで、億 単位のお金を動かすような仕事をするつもりなら、アメリカのカルチャーと密接に関わらないと無理だと思います。

日本の将来を考えると、世界で活躍できるような人財を育成していかないと、もうこの国は立ち行かない。だから、そうした教育を、公立学校がやるのか、大学がやるのか、民間教育者がやるのか、などという議論は不要だと思います。どんな人財を育てていくのか、しっかりとした目標を掲げ、それを教育に携わる全ての人間だけでなく、実業界も巻き込んで、日本全体で取り組んでいく。その中でしっかりとした人財を育成できるところが、日本国民が頼りとする教育機関になっていくのだと思います。私は、全国の塾の先生方と協力しながら、何としてもこの大仕事をやり遂げたいと思っています」

すべて無料で受けられる小・中・高の全国統一テスト

すべて無料で受けられる小・中・高の全国統一テスト

日本の将来を担う、リーダーを育成する

―――6月2日に、小学1年生から6年生の全学年対象の全国統一小学生テストがありましたが、こちらの反応はいかがでしたか。

「全国統一小学生テストは、受験者数は毎回10万人を突破しています。また、今年から全国統一中学生テストもスタートし、今回は11 月4日(月)に実施します。これで、全国統一高校生テストと合わせて、小中高の全国統一テストが揃うことになります。

全国のたくさんの塾の先生方に趣旨に賛同いただき参加をしていただいており ます。全国の才能ある生徒 諸君を発掘し、年月をかけて育てていく。日本の将来を担う人財を発掘・育成することにつながる取り組みであると確信していますので、これからも一生懸命取り組んでいきます」

―――今後の目標はなんでしょう。

「今年度、東大現役合格者は600名になり、現役合格者の3・3人に1人が東進生です。難関大学を中心に、東進生の占めるシェアが高まってきました。将来の日本を引っぱっていくような、たくさんのリーダー候補生をお預かりしているのですから、日本の未来を明るいものにするために、教育に携わる人間の役割、責任は極めて大きいと考えています。

東進ハイスクール、東大現役合格600名達成のポスター

東大現役合格600名達成のポスター

国力とは、国民一人ひとりの人間力の総和です。私は、生徒の人間力を高めることで、日本の将来を拓いていくことが、教育機関としての使命であると考えています。

私どもだけではできないことであっても、日本全国の先生方と力を合わせれば、日本全体を巻き込んだ教育運動を起こすことができると確信しています。全国のたくさんの先生方に支えられ、毎年開催している東進衛星予備校全国大会も今年で20回の節目を迎えることができました。これからも、先生方にご指導頂きながら、お預かりした生徒全員を伸ばすシステムを作りあげられるよう一生懸命頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」

『月刊私塾界』2013年8月号掲載

疾風の如く|進学塾ブレスト(佐賀県)代表取締役社長 犬走智英さん

ブレスト犬走智英さん
剣道があった。音楽があった。
歴史があった。
親友が、悪友が、愛する人がいた。
それらすべてが、
彼の信念を創り上げている。
栄光も挫折も経験し、
夢と希望を乗せたバイクが西へと走る。

 

 

答えはシンプル、「勉強はスポーツだ!」

「オレは建築家になる。お前はどうするんだ」

「さよなら、東京」―。6年前の1月、犬走智英(当時24)は恋人を背中に、箱根峠をひたすら西へ、西へ。二人を乗せたバイクが目指すは、犬走の故郷・佐賀だ。寒風の中、体は冷え切っていたが、心は夢と希望で熱く燃えたぎっていた。

さらに遡ること、幼少期。犬走は、あるガキ大将と仲良くなった。偶然にも、二人とも剣道少年。「コイツには負けねー!」とライバル心に燃えて練習を重ね、佐賀県武雄市の大会では優勝も飾った。

人としての礼儀。競い合い、高め合う喜び。剣道は、塾人・犬走としての原点を叩きこんでくれた存在だ。

中学では定期テスト学年1位だったが、転機が訪れたのは高校時代。地元の進学校へ進んでからだ。「井の中の蛙」という言葉の意味を思い知らされ、あっという間にドロップアウト。髪を染め、悪友に借りたバイクを乗り回すようになる。

ただ、素行は荒れていたが、同時に「なぜオレはこうなった」「教育って何なんだ」という想いも常に抱いていた。仲間とたむろしては、将来を語り合う。「オレは建築士を目指すぞ。犬走、お前の夢は何だ?」とガキ大将。「そうだな、オレは……教育の道に進みたい」。

 

抑鬱状態。どん底を味わう

洗練された外観が目を惹く教室。手がけたのは、旧来の親友だ

洗練された外観が目を惹く教室。手がけたのは、旧来の親友だ

田舎町の不良少年たちにとって、東京は憧れの街だ。そこに行けば、何でも叶う気がするビッグタウン。犬走にとってもそうだった。なんとか合格を勝ち取るための効率的なトレーニングをし明治大学へ進むが、「デカいことをやりたい」という気持ちと、反逆精神は持ち続けていた。自分の感情を昇華するため、社会の矛盾を痛烈に批判するHip-Hopの音楽制作にハマり、Lyric(歌詞)をノートに書き綴った。恋人と出会ったのもこの頃だ。そして、当時の音楽仲間と制作した楽曲は、スノーボードDVDのBGMとして採用され、コンピレーションアルバムが全国のスポーツショップでも販売された。

その後は大手進学塾に入社し、そこで頭角を現す。社長の信任も厚く、起業家マインドの薫陶も受けた。やりがいを感じ、昼夜を問わず働いていたが、好事魔多し。自らを追い込みすぎ、心と体が蝕まれていく。「オレがやらなきゃ」という義務感だけが自分を動かしていたのだ。胃痛だと思って診察を受けた結果は「抑鬱状態」、即ドクターストップ。休職に追い込まれ、虚無な日々が過ぎて行った。

さよなら、東京

ある日、見かねた恋人は「カフェでも行ってノンビリしたら?」と勧めてくれた。ココアをすすりながら「教育とは」という想いが頭をかすめていく。「オレをはじめ、田舎で育った人の多くは『競争』を楽しむことを知らない。そんな育ち方をして、厳しい実社会に放り込まれたらどうなる。オレみたいに壊れちまうんじゃないのか」。「練習して、できるようになる、ライバルに勝てる、そうすれば嬉しい。実にシンプルじゃないか。勉強も仕事もスポーツと一緒だ」。「自分の塾を創りたい。そうだな、名前は何にしよう?」……かつて綴ったLyricノートをパラパラめくり、見つけた言葉がこれだ。『BRAIN STORMING』―「いいな、これ。『ブレスト』か。批判せず、アイデアを出し合う塾。『自分がやらねば』に固執していたオレにピッタリだ。バランスを大切にし、もっと頭を柔らかく、いろんな人にアドバイスをもらいながら、愛される塾。スポーツのように勉強に取り組む塾。競争を楽しめて、実社会を強く生きる子どもを育てる塾。オレはそれを創りたい」。

社長に最後の挨拶をすると、力強い握手で送り出してくれた。恋人に佐賀へ帰る決意を伝えると、涙を浮かべこう言った。「私の夢は、あなたの夢を支えること」。もう迷うことは何もない。二人はバイクにまたがり、佐賀へとエンジンをうならせる。

ブレストの生徒タチ

礼儀と競争の楽しさを教え込む。子どもたちも塾が大好きで仕方ないと言う

もちろん、犬走は当時想像できなかったはずだ。やがてその塾は、人口わずか9000人の小さな町で、100名ほどの生徒が通うナンバーワン塾となることも。かつて夢を語り合ったガキ大将は一級建築士となり、新しい教室を設計してくれることも。恋人は妻となり、愛する子が生まれることも。「さよなら、東京オレはオマエに負けねェーからなー!」―。バイクはいま、関門海峡を越えた。光が見えた気がした。(敬称略)

 

プロフィール

犬走智英 TOMOHIDE INUBASHIRI

ブレスト犬走智英さんプロフィール

1982年、佐賀県出身。生徒の約5割が学年10位以内という地域きっての定員制進学塾・ブレストを運営。剣道や挫折の経験を通じて学んだ「勉強はスポーツだ!」をスローガンにし、また「競争を楽しみ、実社会で折れない子どもを育てる」ことをミッションに掲げている。授業はライブに加え、映像やITを駆使して運営。武雄市の公立中に英語の外部講師として招かれるなど、教育者としての評価も高い。
●WEBサイト
http://www.buresuto.com/
●ブログ「地域NO.1 進学塾ブレストブログ」
http://ameblo.jp/inu-the-husky0802/

『月刊私塾界』2013年8月号掲載

著名人に聞く|タフ・ジャパン代表 鎌田修広さん

ときに厳しく、ときに優しく。確固たる信念と深い愛情で、消防隊員に新たなる体育指導を実践してきた鎌田氏。畑は違えど、同じ教育者として学ぶべきところは多い。鎌田氏はどんな想いで教育に取り組んでいるのか伺った。

一対一の関係を築くことにより、大きな可能性を引き出していく

鎌田修広氏01

本気で向き合えば子どもは必ず変わる

私は学生時代を通じて五十種類ほどのアルバイトをさせていただきましたが、その一つとして家庭教師も経験しました。体育教師になりたかったので、先生というものはどんなものかを味わってみたかったのです。母校の中学の先生と連携し、中学生の九教科を、三年間、無償で担当しました。いま思えばまさに塾ですが、集まってきたのはやんちゃな子たちばかり。本当に毎回が真剣勝負でしたね。

その経験を通じて感じたのは、たとえどんなにやんちゃでも、子どもはみんな優れた能力を持った天才だということ。こちらが本気で向き合うと、子どもは一日で表情、意識、行動が変わるんです。どうやって彼らのやる気の導火線に火をつけて、本気にさせるか。それが私の楽しみでした。中学の先生からも「あの子の振る舞いはそっちではどうだ?」などと聞かれることも多く、塾と学校が協力しあう意味の大きさも実感しています。

私が子どもたちを指導するうえで意識していたのは、「知識のあるものがないものに教える」というスタンスではなく、見守るようなイメージ。大きな枠のルールを設け、そのなかで自由に学べるようにしていました。とかく狭い枠に閉じ込めて教育をしがちだと思うのですが、先生が大きな信念と覚悟を持ちつつ、子どもたちを信じてあげることも大切なのではないでしょうか。そうした先生の愛情は子どもたちにも伝わり、きっと大きく成長してくれることと思います。

鎌田修広氏02

防災力を高めるには道徳心を養う必要も

私が設立したタフ・ジャパンでは、一般の方に向けて「防災道徳」という教育をおこなっています。なぜ防災だけではなく、道徳も合わせて教育するのか。それは道徳心が養われてこそ、はじめて防災力が高まるからです。阪神淡路大震災が起きたとき、震源地に近い淡路島の北淡町はなぜか生存者が多かった。というのもお互いの寝室も分かり合っていたので、地域の人が協力してがれきの下からいち早く救出することができたのです。でも、一体なぜ北淡町だけがそういう意識が持てたのだろう。長年疑問に思っていたのですが、二年前へ現地に行ってみると「道徳教育推進の町」という看板をあちこちでみかけました。「そう だったのか…」。私は防災と道徳を一緒に教育することで、日本の人間関係力を土台から強くしたい。そんなミッションを掲げて、防災道徳の指導と普及に努めています。

また、東日本大震災ではたくさんの避難所が設けられましたが、ある避難所では「ここで暮らす人はみんな家族です。それぞれ自分の役割を見つけ、積極的に行動しましょう」と呼びかけていました。すると年齢も職業もバラバラなのに、まるで家族のような絆が生まれた。その避難所で暮らしていた人たちは、定期的に同窓会を開いているといいます。ともに支え合うことで生まれる絆を、私は教育に盛り込んで多くの人に伝えていきたいと思っています。

そうした想いを通じて立ち上げたのが、帰宅困難を実際に体験してもらう「災強!霞が関防災キャンプ」です。このプログラムでは明かりがない、トイレがないといった不自由な状況を作り出し、見ず知らずの人と一晩をともに過ごしてもらいます。リアルな帰宅困難を体験してもらうことで、多くの気づきをもたらし、行動をおこしてもらいたいのです。参加者は明かりがない不便さを感じれば携帯ライトを買いにいきますし、水がない恐怖を感じれば備蓄水を用意するようになります。また、わざと弁当が一つ足りないようにしておき、その状況をどうやって初対面の人と切り抜けるか、といったことも体験してもらいます。奪い合いが起きてはとても朝までもちません。ほかにもいろいろな仕掛けを作ることで道徳心を養い、防災に対する意識の向上を図っています。

現在消防體育の講師として指導中の神奈川県消防学校第209期初任教育の教え子とともに

現在消防體育の講師として指導中の神奈川県消防学校第209期初任教育の教え子とともに

火事場の馬鹿力を意図的に引き出すには

タフ・ジャパンでは、一般の方に防災道徳を教育するだけではなく、全国の消防隊員に「消防體育」というものを指導しています。これは学校体育とは違い、消防隊員のためだけにおこなう職業体育です。私がこの消防體育を指導する上で意識しているのは、メンタル、フィジカルの鍛錬だけではなく、勇気を育むこと。どんなに屈強な体でも、勇気がなければ消防隊員としては活躍できません。たとえば水泳を指導する場合でも、ただ泳ぐことだけをテーマにするのではなく、実際に消防服に身を包んだときに人を抱えて救出することができるのか、といった実践的なトレーニングをおこないます。そうした訓練を積むことで、いざというときでもひるむことなく、勇気が奮い出るようにしているのです。

また、人間が一番成長するのは、悔しさや苦しさで奥歯を噛む時。隊員たちを極限まで追い込むことで、いわゆる「火事場の馬鹿力」を意図的に引き出すようにもしています。二人一組でバディを組ませ、一人には腕立て伏せを、もう一人には実施者を背中から押さえつけるようにさせます。そして背中を押さえる者には、同時に相手が奮い立つような言葉を浴びせかけさせるのです。腕立て伏せをしている者は、とにかく重いし、苦しい。そんな辛い状況を与えると、バディに負けじと自分でも驚くほどの力を発揮し、達成感を味わうことができるのです。この際に大切なのが「なぜそれをするのか」、その意図をきちんと説明すること。トレーニングの意味を理解することで、隊員たちはより目的意識を持って訓練に臨むことができます。負荷の与え方は上手にコントロールする必要がありますが、一度限界を突破させることは、人を成長させるうえでとても重要だと思っています。

どんなに子どもが多くても一対一の関係を築くこと

消防體育においては、場合によっては何百人という隊員を一度に担当します。そんなときに私が気をつけているのが、一対一の指導をすることです。初めての講義では必ず時間をかけて一人ずつ握手を交わし、しっかりとコミュニケーションを取ります。一対一の関係を築くことは教育の原点だと思いますが、そうやって心の距離を縮めたら、今度はスクリーンを使って家族・恩師の紹介をします。すると、みんな必ず私に興味を持ってくれるのです。それから講義に入っていくのですが、講義では隊員から質問を集め、それに対して答えていくという手法を取っています。つまり毎回その場で組み立てる、オンリーワンのプログラムということ。心の距離が遠いまま、決まり切ったプログラムをおこなうのでは、隊員も集中力を維持し続けられません。いずれにしても、教育者はいかに一対一の関係を築き、全力で関わっていくか。それいかんによって、本人の持つ力を充分に引き出せるかどうかが変わってくると思います。

また、私はさまざまな方法で体を鍛えてきましたが、強い肉体を得るには筋力トレーニングだけではなくストレッチをおこなうことも重要です。筋力は鍛えれば鍛えるほど強くなりますが、それだけではダメなんです。ストレッチを取り入れて柔軟性を磨いてこそ、強靱な体を得ることができる。これは、教育にも同じことがいえると思います。叱るだけでは子どもは萎縮してしまいますし、ほめるだけではたくましくはなれません。さじ加減が難しくはありますが、両方をうまく使い分けることによって、しなやかで強い子どもを育くめると思います。

プロフィール

鎌田修広(かまたのぶひろ)

日本体育大学社会体育学科卒業。在学中にトライアスロン部を創設し、初代主将を務める。平成4年、就職した紳士服チェーンでトップセールスマンとなる。翌年、消防職員となった友人の薦めで横浜市消防局へ入局。消防訓練センターの体育訓練担当教官となり、3千人を超える職員の新たな体育指導法を確立。平成23年退職し、防災研修や人材育成事業をおこなう(株)タフ・ジャパンを設立、代表取締役となる。著書に『生涯現役消防筋肉』。
http://www.tough-japan.com/

『月刊私塾界』2013年8月号掲載

月刊私塾界2013年8月号(通巻388号)

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巻頭言

2012年の合計特殊出生率が1・41になった。16年ぶりに1・4台を回復した。1975年に2・00を割り、2005年に1・26の最低を記録してからは、緩やかに上昇し続けている。 しかし、出生数減少に歯止めがかかっている訳ではない。昨年の出生数は103万7千余人と過去最少を記録した。出生率を計算するときの分母である出産期の女性が減少しているためだ。今後「段階ジュニア世代」女性の年齢が進むと、出産期の女性は激減する。

フランスは、「人口は国力」として、国を挙げて人口増加政策に取り組み、合計特殊出生率が2・00を超えるまでに回復した。様々な政策を提案し、予算化している。OCEDによると、フランスの家族政策に関する予算は国内総生産(GDP)の3・0%。それに対し日本は0・8%と、OECD加盟国平均の2・4%を大きく下回る。 ドイツやシンガポールは労働力不足を移民により補っている。人口減少社会に突入した日本も、移民政策は、様々な問題を孕んでいることを理解しながらも、検討せざるを得ない課題だ。学習塾は、これら政策の影響を大きく受ける。

そして当業界は、デモグラフィックな観点の導入を真剣に考えなければならない。例えば、福岡県粕屋町の2040年の推計人口は、2010年比29・8%も増える見通しだ。粕屋町だけでなく、福岡市隣接市町に人口増加地域がある。同様の都市圏は他にも存在する。理由を含め、少し調査すれば判る。反対の減少についても同様だ。是非調べて欲しい。

(如己 一)

目次

<<NEWS FILE>>
    • 少子化対策決定
    • 京進東京に保育園開設
    • 成学社 私立校経営者へフリーペーパー
    • 大阪市、授業にタブレット1人1台構想
    • 3DSに児童書を配信

…etc

<<特集>>

教育ICT考

<<TOP LEADER>>

株式会社 ナガセ

<<シリーズ・著名人に聞く>>

鎌田 修広タフ・ジャパン代表

<<石田 淳のケイゾクはチカラなり>>

ゲスト 祐川 京子 氏

<<連載>>
  • 千里の道も一歩から ~編集長備忘録~
  • 公益社団法人に移行した全国学習塾協会の記念式典で
  • 下村博文・文部科学大臣が基調講演
  • 最新塾動向 株式会社浜学園
  • 各ブランドの役割を明確化、全体で相乗効果を狙う
  • 学習塾の空間づくり 20 PEG(京都府京都市)
  • 新学習塾業界とM&A 4 会社清算とM&Aについて
  • 差別化のためのコミュニケーション戦略
  • 疾風の如く 49 進学塾ブレスト 代表 犬走 智英 さん
  • 近況を聞く 株式会社 全教研 中垣 一明社長
  • 【新連載】会社を建て直すためのリーダー養成塾
  • 【図解!】事業承継対策
  • 【挑む私学】駒込中学・高等学校
  • 京都市立 堀川高等学校 学校改革の軌跡 4
  • 新米塾長のための 学習塾経営基礎講座 3
  • 新しくなってます
  • 【新連載】新米塾長のための部下とサシで行きたいごはん屋さん
  • 【新連載】芸術見聞録
  • ステキ★塾女発見! 同年代塾女に負けていられません!9
  • 未之知也
  • Book Review
  • 学習塾フランチャイズ研究所 44
  • 日本教育ペンクラブ・リレー寄稿 235
  • 中学生からの子育てスクランブル 18
  • challenge~進化形jukuのカタチ 10
  • 教育サービス業界 企業研究
  • 井上郁夫の教室指南 4
  • 林明夫の「21世紀の地球社会」96
  • 高嶋哲夫の「塾への応援歌」137
  • 2013教育時評 8
  • 編集後記
  • 塾長のためのガジェット講座

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