特定非営利活動法人 鴻鵠塾(東京都)生きたい人生を生きよう 広がれ、羽ばたけ、鴻鵠の翼|疾風の如く|2016年4月号

自分が歩んできた「当たり前」の世界。
それは、社会全体から見れば
あまりにもちっぽけな箱庭だった。
その進路は、自らの心に従った結論かい?
情報に踊らされる若者たちに
「人生を自ら選択する」喜びを。
届け、鴻鵠の志。

鴻鵠塾(東京都)

代表理事 上田 圭祐さん

鴻鵠の視点を持て

代表理事 上田 圭祐さん

燕雀安んぞ、鴻鵠の志を知らんや。小さく狭い視点(人物)では、大いなる大志を理解できるはずがないという意味の故事成語だ。
対して、現代の日本社会に生きる若者はどうだ。自らの人生の岐路となるはずの進学や就職先の選択でさえ、何が正しいか分からず彷徨っている。自らの魂の声に耳を傾けることを忘れ、他人や社会が決めた価値観を唯一の「幸福」あるいは「勝利」だと信じ込まされ、枠の中に自分をはめ込んでいく…… そんな現状を憂い、「鴻鵠」たる視点を若者に芽生えさせるべく、東奔西走する男がいる。上田圭祐(三七)だ。
上田の教育活動は、NPO法人として、高校生・大学生のキャリア形成などを支援すること。いわゆる学習塾のカテゴリではない。しかしその実践は、まさしく人を育てるという、本質的な「教育」そのものといえるだろう。
自身は、筑波大附属の小・中・高から中央大の理工学部、日本最大級の産業技術研究機関・産総研を経てIBM社に入社するという、まさにエリート街道を歩んできた人間だ。しかし、人もうらやむようなその経歴の裏には、多くの挫折や苦しみを孕んでいた。それが、上田の教育の原点だったのかもしれない。

あまりに狭すぎた世界の中で

多くの社会人との接点やワークなどを通じて学生の自己理解を深める

上田が筑波大附属の畑を歩んできたのは、親の意思だ。さすがに小さな子供に進路の自己判断を迫るのは無理があるが、上田にとって「世界」とは、その学校社会がすべてだったことは事実である。
しかし、高校から入学してきた同級生が、その狭い社会の壁を壊してくれた。彼はダンスが大好きな行動派で、その賛否は別としても、中学生の頃から六本木のクラブに出入りしていたようなタイプだ。もちろん、これまでの上田の世界には、まったく存在しなかった遊び方である。
ある日、彼は上田をクラブに誘ってくれた。そこで上田が見たのは、多くの仲間に囲まれ、学校では見たことのないような輝きを見せる彼の姿だった。「今までの俺の人生、なんだったんだ……」そう思うのも無理はなかっただろう。
次の転機は、浪人経験だ。医師になりたくて国立大の医学部を目指していたが、二浪した末に挫折。予備校に通っているときも、自分が知らなかった生き方や価値観を持っているヤツらを、たくさん見てきた。
もちろん、これだけ努力しても合格できないという事実も、カルチャーショックと屈辱感に拍車をかける。結局、中央大に進んだのも、決して自ら望んだ道ではなかった。医学部への未練を残しながら、やりたいことも見つからない日々だった。
しかし、仲間もたくさんでき、いわゆる楽しい学生生活は謳歌できたという。そうした人とのコミュニケーションが、次第に上田の中に「やりたいこと」を萌芽させていった。「人と接すること」に喜びを感じていたのだ。
産総研も、最初は勧められるがままに入っただけだったが、かえって「自分は研究より人と接するほうが好き」「それを活かした企業人になりたい」という想いを強くさせるのに奏功した。
上田の中の「鴻鵠の視点」は、着実に開き始めていたのだ。

就活を通じて、人生を掘り起こす

6次産業化や祭の創出など、学生の力を活かした地方創生事業も行う

IBM入社後は、水を得た魚のようにその本領を発揮。主に営業職として華やかな実績を次々に残す一方で、友人・知人、あるいは本人から、悩める就活生の力になって欲しい、という相談が舞い込むように。これが、鴻鵠塾の原点である。
便宜上、就活塾としてテクニック指導もするが、根底にあるのはあくまで「なぜ社会に出るのか」「出て何をしたいのか」「それができる仕事は、会社は何か」という、『生き方』を深く問う作業だ。やがて上田の下には多くの学生が集まるようになり、送り出した内定者は八年間でのべ七〇〇人を超えた。
最近では高校生向けのキャリア教育や、培った学生・社会人の人脈を活かした地方創生活動にも力を入れている。鴻鵠の翼は、着実にその飛行範囲を広げ続けている。(敬称略)
文/松見敬彦

上田 圭祐 KEISUKE UEDA

1978年生まれ、東京都出身。IBMに入社後、大学生の就活支援を通じたキャリア教育活動を始める。やがて希望者が続出するようになったことで、持ち前の起業家精神に火がつき、活動をNPO法人化。現在は都立校のキャリア教育や地域活性事業にも活動領域を広げる。今後は、学習塾や私立高校にも活動を広げたいと語る。

●WEBサイト
http://koukokujyuku.org/

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