脳内のアルツハイマー病変を早期検出する血液バイオマーカーの産生機構を解明 東京大学、岡山大学、科学技術振興機構

 東京大学大学院薬学系研究科の富田泰輔教授、横山雅シャラ大学院生、松崎将也大学院生(研究当時)、島津製作所の金子直樹係長、田中耕一エグゼクティブリサーチフェロー、岡山大学学術研究院保健学域の廣畑聡教授が、アルツハイマー病の血液診断法に用いられるバイオマーカー分子(※1)APP669-711の産生に関わるプロテアーゼ(※2)としてADAMTS4を同定した。
 現在、アルツハイマー病の予防や治療にあたっては早期から介入することが必要であると理解され、脳内の病変を簡便かつ正確に診断する技術の開発が求められている。APP669-711は血液バイオマーカー分子として2014年に同定された新しいペプチドですが、どのように産生されるのかについては一切不明だった。
 研究グループは培養細胞や動物モデルを用いてADAMTS4と呼ばれるメタロプロテアーゼがAPP669-711の産生に関わっていることや、APP669-711もまた脳内に蓄積していることを明らかにした。これらの発見は血液中のAPP669-711を利用した脳内病変診断技術が更に正確になることや、ADAMTS4を標的とした新しいアルツハイマー病診断・治療法の開発に繋がる可能性がある。
 この研究成果は、日本時間2月1日午前10時(英国標準時間2月1日午前1時)に米国科学誌「Molecular Psychiatry」のオンライン版に掲載されている。

(※ 1)バイオマーカー分子
 疾患の有無や、進行状態を示す目安となる生理学的指標の分子のこと。治療効果や診断、疾患予防効果の指標として用いる。

(※ 2)プロテアーゼ
 タンパク質を構成するアミノ酸をつないでいるペプチド結合において加水分解を起こし、切断する酵素。活性中心の種類によって更に分類される。特に切断活性に金属イオンを必要とするものをメタロプロテアーゼと呼ぶ。

◆発表者
 富田 泰輔(東京大学大学院薬学系研究科 薬学専攻 教授)
 横山 雅シャラ(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 博士課程)
 松崎 将也(東京大学大学院薬学系研究科 薬学専攻 博士課程(研究当時))
 金子 直樹(島津製作所田中耕一記念質量分析研究所 係長)
 田中 耕一(島津製作所田中耕一記念質量分析研究所 所長/エグゼクティブリサーチフェロー)
 廣畑 聡(岡山大学 学術研究院 保健学域 教授)

<発表のポイント>

・血液による脳内アルツハイマー病変の診断技術に用いられているバイオマーカー分子APP669-711の産生機構については一切不明だった。
・ADAMTS4と呼ばれるプロテアーゼがAPP669-711の産生に関わっていることを世界で初めて明らかにした。
・脳内の病変がどのように血液中のAPP669-711およびアミロイドβ関連ペプチドの存在量に影響を与えるかが解明され、更に正確にアルツハイマー病を診断、予測できる技術開発に貢献すると考えられる。

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