【小学生の読書に関する実態調査・研究】幅広い読書が「思考力」や「創造性」にプラス効果 ベネッセ調査

 株式会社ベネッセホールディングスのグループ会社、株式会社ベネッセコーポレーション(岡山市、小林 仁 代表取締役社長)の社内シンクタンク、ベネッセ教育総合研究所では、「電子図書館まなびライブラリー」※ の利用者の読書履歴と学力テストやアンケート調査の結果をもとに、読書が子どものさまざまな力や教科の学力にどのような影響を与えているのか、その変化を追跡する調査・研究を実施している。

 今回の研究では、小学5年生から6年生にかけての1年間について、読書の「質」、とりわけ、子どもが読んでいる本の種類(ジャンル)に注目し、幅広い読書の効果を分析。その結果、1年間に幅広い種類の読書をした子どもほど、興味や知識の広がり、考える力(思考力)の向上、創造性の涵養など、さまざまな力の高まりを感じているとともに、教科の学力、特に「社会」の成績も向上していることが明らかになった。また、幅広い読書をしている子どもは、本の「読み方」を工夫していることもわかった。

【主な分析結果】
① 「いろいろな種類の本」 を読んでいる子どもほど、読書の効果を感じている
子どもに読書の効果(本を読んでいて感じること)をたずねたところ、「いろいろな種類の本」を読んでいる子どもは、そうでない子どもに比べて、「わからないことを自分で調べるようになった」「いろいろな人の考えを知ることができた」「難しいことを考える力がついた」「新しいアイデアが浮かぶようになった」など、さまざまな読書の効果を感じている。幅広い読書によって、興味や知識の広がりとともに、考える力(思考力)の向上、創造性の涵養など、さまざまな効果を感じていることがわかる。(⇒図1-1)
また、「いろいろな種類の本」を読んでいる子どもは、「どこが大切かを考えながら読む」「わからない言葉を調べたり、人に聞いたりしながら読む」など、本の「読み方」を工夫している。(⇒図1-2)

② 多くのジャンルの本を読んでいる子どもほど学力が向上。とくに 「社会」 の成績に効果
読書履歴をもとに、子どもたちが読んでいる本の種類(ジャンル)の多さと、1年間の学力(テストの偏差値)の変化との関連をみたところ、読む本の種類が多い(4ジャンル)子どもは、読む本の種類が少ない(1~2ジャンル)子どもや、本を「読まなかった」子どもに比べて、偏差値の上昇幅が大きい。(⇒図2-2)
なかでも、「社会」の上昇幅が大きい。(⇒図2-3) とくに、「社会・歴史」の本も含めた多様な本を読むことが
「社会」の成績上昇に効果をもっている。

③ 手に取りやすい切り口の科学・歴史などの本が、読書のジャンルを広げている
この1年間によく読まれた本の特徴として、「いきもの最強バラエティー ウソナンデス」(学研プラス)、「ジュニア空想科学読本」(KADOKAWA)、「しくじり歴史人物事典」(学研プラス)など、生き物・科学技術・歴史の専門的な内容を、子どもが手に取りやすい切り口で扱った作品が上位にあがった。こうした本は、「お話・読み物」中心に読書をすることが多い子どもたちにとって、興味の幅を広げることに役立ち、読書のジャンルを広げることにもつながっていると思われる。(⇒表1)

※電子書籍サービス「電子図書館まなびライブラリー」
進研ゼミ会員が自由に使える電子書籍のサービス(https://www.benesse.co.jp/zemi/ml/)。ネットワークがつながる環境とデバイスがあれば、いつでも、どこでも自由に読書ができます。貸出できる本は定期的に入れ替え、常時1000冊の本から自分の読みたい本を選ぶことができる。このような使い勝手のよさから、今ではこのサービスを使う小・中・高校生は、約85.6万人、毎月の利用者は平均約38.6万人(2019年9月現在)。子どもたちにとって、一般の(紙の)書籍に代わる重要な読書機会になっている。

【研究枠組み・分析データ】

分析①:「いろいろな種類の本」を読んでいる子どもほど、読書の効果を感じている

図1-1 子どもが感じている読書の効果(「いろいろな種類の本」を読むかどうか別)

*「本を読んでいて、次のことをどれくらい感じますか」とたずねた結果。「とても感じる」「まあ感じる」の%、[   ]内はその合計。   ポイント(p)差は合計の差を示している。
*「読む」は、本の読み方(「いろいろな種類の本」を読むかどうか)をたずねた質問に、「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した子ども(1,344名)、「読まない」は、「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」と回答した子ども(412名)。
*「読む」子どもと「読まない」子どもの差が大きい5項目を示している。

図1-2 本の「読み方」(「いろいろな種類の本」を読むかどうか別)

*「あなたが本を読むとき、次のことはどれくらいあてはまりますか」とたずねた結果。「とてもあてはまる」「まああてはまる」の%、[   ]内はその合計。ポイント(p)差は合計の差を示している。
*「読む」「読まない」の区分は図1-1と同様。
*「読む」子どもと「読まない」子どもの差が大きい4項目を示している。

分析②:多くのジャンルの本を読んでいる子どもほど学力が向上。とくに「社会」の成績に効果 

ジャンルの設定(4ジャンル)
A)お話・読み物…「0:お話・読み物(小説など)」「1:絵本」
B)自然・科学に関する本…「2:図鑑・事典」「6:自然・生物」「7:科学・技術」
C)社会・歴史に関する本…「4:歴史・伝記・地理」「5:社会・文化」
D)生き方に関する本…「3:哲学」「8:職業・産業」「9:芸術・趣味」「10:言語」


*電子書籍の読書履歴から、子ども1人ひとりが読んだ本のジャンル数を集計(この1年間に1冊以上の本を読んだ子ども20,639名)。
*ジャンルは、日本十進分類法(NDC)による各書籍の分類をもとに、内容を加味して0~10に分類したものを、さらにA)~D)に分類している。
*数値は小数点第2位を四捨五入しているため、和が100.0にならない。
 

*偏差値は、『進研ゼミ』の「実力診断テスト」4教科成績の結果。【事前】(2018年8月)の偏差値を起点に、【事後】(2019年8月)の「読まなかった」子どもの偏差値の変化を「0」として示している。
*「読まなかった」は、この1年間に本を1冊も読まなかった子ども(23,969名)。「1ジャンルを読んだ」~「4ジャンルを読んだ」は図2-1に示したとおり。「3ジャンルを読んだ」の図は省略している。
*p<0.001(分散分析)
 

*偏差値は、『進研ゼミ』の「実力診断テスト」各教科成績の結果。グラフの示し方は図2-2と同様。
*社会 p<0.001、理科 p<0.01、算数 p<0.05(分散分析)。
 

分析③:手に取りやすい切り口の科学・歴史などの本が、読書のジャンルを広げている

 この1年間に、対象者によく読まれた本をジャンル別にみると、「お話・読み物」では、「おれがあいつであいつがおれで」(KADOKAWA)のような定番の児童文学のほか、「小説 劇場版 七つの大罪 天空の囚われ人」(講談社)といった映画や人気コミックのノベライズが上位である。
 また、「自然・科学」「社会・歴史」に関する本では、「いきもの最強バラエティー ウソナンデス」(学研プラス)、「ジュニア空想科学読本」(KADOKAWA)、「しくじり歴史人物事典」(学研プラス)など、専門的な内容を、子どもが手に取りやすいやわらかい切り口で扱った作品がよく読まれた。こういった「自然・科学」「社会・歴史」の作品は、子どもたちの多くが「お話・読み物」中心に読書をしており、「自然・科学」「社会・歴史」の本を読むことが比較的少ないなか、子どもたちの興味の幅を広げることに役立ち、読書のジャンルを広げることにもつながっていると思われる。

*各ジャンルで読まれた本のうち、上位5冊を示している。

【まとめ】
 これからの子どもたちには、多様な資質・能力を高めることが求められる。
 今回の研究では、幅広い種類(ジャンル)の読書には、興味や知識の広がり、考える力(思考力)の向上、創造性の涵養など、さまざまな力を高める効果があるとともに、教科の学力、特に「社会」の成績を向上させる効果もあることがわかった。幅広い読書をしている子どもは、どこが大切かを考えたり、わからない言葉を調べたりするなど、本の「読み方」も工夫している。幅広い読書を通して、自分の興味を広げながら、調べたり考えたりしたことが「社会」の成績にも結びついたと考えられる。
 子どもたちには、ぜひ幅広い種類(ジャンル)の読書を通して、さまざまな人・時代の考えや、社会・世界と出会い、今後、必要となるさまざまな力を育んでほしいものだ。その過程で、教科の学習を深める本にも出会い、教科の力を高めることにもつながると思われる。
 ベネッセ教育総合研究所では、引き続き、読書が子どもの多様な資質・能力の形成にどのような影響をもつのかについて研究を深め、明らかになったことを社会に発信して、子どもたちのよりよい読書環境づくりに役立てていく。

※ベネッセ教育総合研究所のホームページから、本リリースに関連する資料をダウンロードできる。
「読書履歴を活用したデータ分析」 https://berd.benesse.jp/special/bigdata/ebookanalysis.php

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