中央教育審議会の教育課程部会は8月26日、2020年度以降に小中高校で導入する学習指導要領の改訂に関する審議まとめ案を了承した。アクティブ・ラーニング(能動的学習)を全教科に取り入れ、英語教育を小学3年生からに前倒しする。審議まとめ案は「グローバル化や人工知能(AI)の進化などで将来の予測が難しくなる中、社会で自立的に生きる力が必要」などと改訂の方針を強調。「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」も重視し、教育内容のみの改訂にとどまらず、知識の深い理解を目指すとした。
「小説すばる」(集英社)に2014年5月号から16年4月号まで20回に渡り連載された森絵都さんが著した「みかづき」が2016年9月5日、集英社より刊行された。
昭和36年、赤坂千明から学習塾の立ち上げに誘われ、大島吾郎の教育者人生が始まる。「大島さん、私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです。太陽の光を十分に吸収できない子どもたちを、暗がりの中で静かに照らす月、今はまだ儚げな三日月に過ぎないけれど、かならず満ちていきますわ」。題名の「みかづき」はここに潜み、以後三世代に渡り、塾を舞台に教育の何たるかを綴る。
吾郎が五十何冊目かに書いた初めての自叙伝のタイトルも「みかづき」とした。出版記念パーティーでの吾郎のスピーチでは、「教育の完成はありません。満月足りえない途上の月を悩ましく仰ぎ、奮闘を重ねた同志の皆さんに、この場をお借りして心から敬意を表します」とまとめた。
「圧倒された」とは、書評家の北上次郎氏。
1960年代から2000年代までを駆け抜ける塾を舞台にした親子3代の物語。ぜひご一読を。
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森絵都(著/文)
発行:集英社。
四六判 472頁
定価:1,850円+税
2016年9月5日発売
作家。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。著書に『つきのふね』(野間児童文芸賞)『カラフル』(産経児童出版文化賞)『DIVE!!』( 小学館児童出版文化賞)『風に舞いあがるビニールシート』(直木賞)『永遠の出口』『クラスメイツ』等多数。
4月14日に発生した震度7の前震をはじめとする一連の地震は、熊本一帯に大きな被害をもたらした。それでも現地で私塾に携わる人たちは過酷な状況のなか、子供たちに学ぶ機会を提供し続けている。地震発生から4ヶ月近く経った熊本で、4つの教育現場をレポートする。
熊本県内屈指の教室数をほこる「早稲田スクール」(熊本市中央区)は、地震によりひとつの校舎が解体、3校で大規模修理が必要となった。解体される校舎は移転先が見つかったものの、3校は授業再開の目途が立たなかった。そこで3校の駐車場に、トレーラーで運んですぐに使用できるユニットハウスを複数設置。5月10日には授業を再開した。
実はプレハブを建てたほうが費用的には負担が少ないのだが、あえてユニットハウスを選択した理由を同社の向田敬二社長が語った。「安価なプレハブを建てることも考えましたが、建築の申請や工事に長い時間がかかるんです。そうなると生徒の学習はますます遅れます。保護者も心配されますし、受験生への影響は特に大きい。ですから費用がかさんでも学習環境を早く整えなければいけない。お金や理屈ではなく、そういう思いを社内で共有して授業再開に向けて取り組みました」
向田氏自身も被災し、自宅近くの高校に1週間避難していた。同様に被災していた社員も少なくない。それでも同社は生徒の学習環境を整えることを優先した。向田氏は授業再開後の生徒について「それはもう喜んでいました」と、顔をほころばせた。1学期の終わりには校舎の修理がほぼ完了し、生徒たちは通いなれた校舎で夏期講習に勤しんでいる。
熊本市東区の「なるほどゼミナール(ナルゼミ)」では、教室の水道が復旧した4月25日から「震災特別講習」を無料で実施した。それから学校が始まるゴールデンウィーク明けまでの2週間、休日を返上して朝9時から夕方6時まで授業を継続。特に小学生が通常より50人も増えたため、卒塾生の大学生や高校生がボランティアとして講師を買って出た。同社社長で講師でもある山中孝光氏は、さらに多くの子供たちに勉強する場所を与えたいと協力を呼びかけ、同様の講習が他塾でも実施された。
しかし、阿蘇地区の子供たちは熊本市内への道路やJRが寸断されており熊本市内の塾に来ることができない状況が続いている。山中氏はここでも「阿蘇地区にいる受験生たちにも力になりたい」と考えたという。そこでナルゼミで使用しているテキスト「高校入試対策 Spurt+(スパートプラス)」を440人分、2200冊を阿蘇地区の4つの中学校に寄贈した。
「勉強の仕方が誰でもわかるようになる」という工夫が凝らされているテキストは、阿蘇地区の中学校の先生からも好評を得た。現在は、多くの住宅が倒壊した益城町の中学校にも同様の支援を行うため、クラウドファンディングで資金を募っている。
〝夏期講習も無料で教えます〟。益城町でも特に被害が大きい惣領地区で、ひときわ目立つ横断幕を掲げる「さくらゼミナールましき校」。小5から中3が対象の学習塾だ。こちらの平屋で鉄筋構造の校舎はほとんど被害を受けなかったが、周囲に住む多くの子どもたちは家を失い、避難所生活を強いられることになった。
そこでさくらゼミナールは、4月25日から5月8日の間、ましき校を13時から17時まで無料で開放した。「生活のための避難所は大人が中心の環境になってしまいます。まずは子どもだけの居場所が必要だと感じ、教室を開放しました。ただ、子供たちは来ても元気がないんです。ですから、まずは勉強というより一人一人の話を聞いてあげることから始めました」ましき校の校長、石井仁晃氏はそう語った。
さらに、ウェブサイトを通して寄付金を募り、ゴールデンウィーク後に再開した授業や夏季講習も無料で実施することにした。この期間で生徒は100人近く増えたが、資金面での負担が大きく、9月からは無料で続けるわけにはいかないため、今後は被災者を支援する他団体と協力し、新たな方法で生徒のサポートを続けていくという。
生徒たちも地震直後にくらべ「笑顔が戻ってきました。それを見た保護者の笑顔も増えていると感じます」と石井氏は言う。笑顔を増やしたい。それが支援を続ける原動力だ。
熊本県内に528校ある小中学校うち、一時は351校が地震の影響で休校となった。益城町立広安西小学校は避難所となり、約800人の避難者を受け入れた。授業は5月9日に再開したものの、その週は2時間しか授業ができなかった。
そこでPTAが中心となり、放課後に希望者が勉強できる「ガッツ学習塾」を16日から開始。ここで子供たちの宿題や復習をサポートしたのが、熊本県内で明光義塾を運営する「サクセスリンク」(熊本県玉名市)と、家庭教師派遣の熊大アカデミーを展開する「九州教育研修センター」(熊本市中央区)の講師たちだった。
明光義塾の帯山教室教室長、尾方範夫氏は「PTA会長が私と知り合いということもあり、すぐに話がまとまりました。熊大アカデミーの講師は熊大の教育学部生が多く、授業ではレクリエーションなども取り入れました。大人が協力して子供の学習をサポートしました」と語った。
同校の井手文雄校長は、私塾の取り組みについて「学校と学習塾は、立場は違っても気持ちは変わりません。勉強はもちろん、子供たちを見守るという点でも、子供と保護者に安心感を持ってもらったと思います」と述べた。
熊本の私塾に携わる人たちは、震災直後から子供たちに勉強を教えるという務めを全うした。その役割をそれぞれの立ち位置から貫くことで被災者に安心感を与えた。熊本の私塾をはじめとした教育関係者に敬意を表したい。