ヒューリック、ベネッセ傘下「鉄緑会」を完全子会社化

東大受験指導の最難関ブランド、こども教育事業に取り込む

 ヒューリック株式会社(東京都中央区、前田隆也代表取締役社長)は7月7日、東京大学受験指導に特化した進学塾「鉄緑会」を運営する株式会社東京教育研(東京都渋谷区、浜垣剛代表取締役社長)の全株式を取得し、完全子会社化すると発表した。東京教育研はこれまでベネッセコーポレーション傘下にあり、今回の買収によりグループを離れる。ヒューリックが2020年に参入したこども教育事業にとって、大学受験という最難関領域への本格進出となる。

「不動産の商社化」戦略の一環、M&Aに7500億円枠

 ヒューリックは2026年2月に公表した中長期経営計画(2026~2036年度)で「不動産の商社化」を基本戦略に掲げ、成長分野へのM&Aを積極活用して利益成長と企業価値向上を図る方針を示している。今回の買収はその一環で、既存のこども教育事業(リソー教育グループ、こどもでぱーと等)との高いシナジーを見込む。同社は36年度までの計画期間中、こども教育事業を含む新規事業の拡大に向けM&Aや企業投資に7500億円を投じる方針を掲げており、今回の買収もこの枠組みに位置づけられる。買収額は公表されていない。

東大合格者584名、占有率20%
――理三は6割弱を占める

 鉄緑会は、中高一貫校に通う中学1年生~高校3年生を対象とした集団指導型の東大受験専門塾。代々木エリア(東京本校、6校舎)を拠点に、大阪・京都・西宮北口にも教室を展開する。2026年度の東京大学合格実績は584名(東大全合格者に占める占有率20%)で、最難関とされる理科三類では57名・占有率59%に達した。区分別の実績は以下の通り。

区分合格者数占有率
文科一類96名24%
文科二類60名17%
文科三類28名6%
理科一類248名22%
理科二類95名18%
理科三類57名59%
合計584名20%

 難関大学進学実績の高い中高一貫校15校を「指定校」に指定し、同校在籍生徒は中学1年春の入会選抜試験を免除する独自制度を運用。2026年度の主要指定校の通塾率は、開成48%、桜蔭65%、筑波大学附属駒場69%に達し、国内最優秀層の生徒を集める母集団を形成している。専任講師陣は東大・京大出身率100%、学生講師の約9割を鉄緑会出身者が占めるなど、合格実績とブランド力、人材循環が一体となった競争優位性を強みとする。

こどもでぱーと、リソー教育に続く一手
──教育経済圏を拡大

 ヒューリックのこども教育事業は2020年9月の参入に始まる。2022年4月には子育て世帯向け複合施設「こどもでぱーと」シリーズの展開を公表し、中野・たまプラーザ・渋谷などで開業、2029年までに首都圏で20棟程度への拡大を目指す。2024年5月には個別指導塾「TOMAS」を運営するリソー教育(現・株式会社リソー教育グループ)を公開買付けと第三者割当増資により連結子会社化した(買収額は約160億円)。今回の鉄緑会の完全子会社化により、幼児から大学受験生までを対象とする「集団・個別・学習」の各領域を揃え、独自のこども教育経済圏をさらに拡大する方針だ。

不動産ノウハウで出店支援、人的ネットワークも活用視野に

 シナジー面では、ヒューリックが持つ不動産開発・運営ノウハウやネットワーク、資金調達力を生かし、限定的な立地で展開してきた鉄緑会の既存エリア拡充や将来的な新規出店を支援する狙いがある。自社ビルへの校舎誘致が進めば、賃貸収益の拡大にもつながる。加えて、同塾が抱える卒業生・現役生というトップ層人材の人的ネットワークを、教育・人材関連サービスへ展開する余地があるとしている。ヒューリックは東京教育研(鉄緑会)の経営方針を尊重しつつ、グループの経営資源を活用して同社の成長を支援するとしている。

ベネッセは教育事業を再編
――07年買収から19年でグループ離脱

 鉄緑会は2007年、ベネッセコーポレーションが東京個別指導学院とともに買収し、通信教育「進研ゼミ」に加え、個別指導塾や難関大受験指導まで幅広い層と接点を持つ教育事業ポートフォリオの一角を担ってきた。しかしベネッセは2024年、創業家と欧州投資ファンドEQTが組んでMBO(経営陣が参加する買収)を実施し上場廃止となったのち、2026年4月には英語コーチング事業のスタディーハッカー(現・イングリッシュカンパニー)を英語学習サービスのプログリットへ売却するなど、教育事業の再編を進めていた。鉄緑会の売却も、この一連の再編の流れに位置づけられる。

教育投資は増加基調、私塾業界にも資本再編の波

 少子化により全国の18歳以下人口は減少する一方、首都圏では底堅く推移し、政府の教育支援策拡充や共働き世帯の増加を背景に「こども一人当たりの教育投資」は増加基調にある。ヒューリックはこうした環境変化から「高付加価値教育」への需要拡大を見込み、同分野への投資を進めている。不動産会社による有力教育ブランドの取り込みが相次ぐ中、連結される事業利益によって不動産以外の収益の柱を増やす狙いもうかがえる。学習塾経営者にとっても、資本提携やグループ化を通じた成長戦略・出口戦略が、今後の経営選択肢として一段と存在感を増しそうだ。

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