学習支援塾ビーンズ(東京都)未来を自らの手でデザインする 〝学び治し〟の種|疾風の如く|2016年11月号

これだけ時代が変わっても、
なぜ教育現場は変わらないのか。
なぜ彼らは「道を外れた」のか。
学校が嫌い。勉強が嫌い。
自分の夢も見つからない。
自分もそうだったからこそ、
分かってあげられることがある。

東京都
学習支援塾ビーンズ

代表 塚﨑 康弘さん

早稲田に入ればすべてうまくいく

塚﨑康弘は、高校が大嫌いだった。一応は進学校と呼ばれるような学校だったが、先生は生徒を殴って勉強させるタイプ。生徒同士もどこかぎすぎすしていた。
「空気が読めないタイプだったんです」と自嘲する塚﨑。「みんなで頑張って大学に行こうぜ!」と周囲を鼓舞したが、そういう一直線な情熱は嘲笑されがちな年頃だ。「何を一人で熱くなっているのか」と、下駄箱を壊されるなどの嫌がらせも受けた。とにかく、学校へ行くのが嫌で嫌で仕方なかったという。
 しかし、高校最後の文化祭は大きな転機となる。件の暴力教師は「うどんの模擬店をやれ」と言ってきたが、それに反発。得意の「空気の読めなさ」を発揮して自ら脚本を書き、青春群像を描いた創作劇を行ったところ、感涙する者まで出るほどの大反響を呼んだ。斜に構えていたクラスメイトたちも次第に感化され、夢を抱いて頑張るようになる。それは今でも「伝説」だ。
 あるとき誰かが、教室に東京の地図を貼った。「俺たちは勉強して、東京の大学に行くんだ!」、そんな空気のなか、塚﨑も早稲田を目指す。早稲田に入ればすべてうまくいく、きっと幸せになれる、そう思っていた。

燃え尽き症候群

自分の未来を想像させる「夢・目標を書き出すワーク」

しかし、その反動が来た。無事、早稲田に合格できたものの、典型的な燃え尽き症候群にかかり、あっという間に不登校に。自己嫌悪にも陥り、布団を被って部屋に引きこもる日々が続いたという。
 ただ、捨てる神あれば拾う神あり。ずっと私淑していた社会学者に会うことができ、その薫陶を受けた。高校、大学と生きづらさを抱えて過ごしてきたが、それは決して自分だけではないことを知る。再び大学に行くようになり、そこでの学びでよりその思いを強め、次第に自分に何ができるのか考えるようになった。
 就職後に体調を崩して帰郷するが、そこで始めた家庭教師の仕事が、塚﨑の心にさらに火をつけることとなる。生徒たちは、「このままでは(受験に)間に合わない」「学校や塾などでの集団教育になじめない」「不登校」など、みな「何か」を抱えていた。

もう一度、東京で勝負したい

「意識の優先順位を探るワーク」。悩みを抱える生徒に、自分の価値観の源泉を見つけさせる

しかし、そういう子ほど光る個性を持っていることも多い。そうした個性を押しつぶされて来たのだ。ある生徒は「早稲田に行きたい」と言ったところ、学校の先生に「お前なんかが行けるわけない」と全否定されたという。ある教育懇談の場では、「(問題のある子は)ビシバシやってやればいんだよ!」と雑に言い放つ先生もいたほどだ。
 同時にジレンマにも苛まれていた。せめて自分くらいは、もっと生きる意味や学ぶ意味を伝えてやりたかったが、家庭教師として「(受験に)間に合わない」と言われている子を前に、背に腹は代えられない状態だった。その豊かな個性を認められながら、虚ろな目で〝勉強させられる〟彼らを見るにつけ、限界を感じていた。
 そのやるせなさは義憤にまで高まり、一念発起。「もう一度、東京で勝負してみよう!」。そうして生まれたのが、不登校や勉強嫌いな生徒のための『学習支援塾ビーンズ』だ。
 しかし、塚﨑は強調する。「うちはフリースクールじゃないんです」。何をしていても許される場所ではなく、あくまで復学・進学という成果を見据えて子供らの社会復帰を目指す「塾」である。
 そのためにも、まず「講師が腹を切る」ことが大事だ、と塚﨑。大人たちも初対面から自らのバックグラウンドや過去をさらけ出して生徒と接するという。『学び〝治し〟の授業』と銘打ち、心の不安や不満を整理しながら彼らの自尊心を回復し、キャリア教育やワークショップを絡めつつ自律心を育て、学習指導を行っていくのだ。その活動は着実に広がり、最近はHPを見て生徒自ら入塾を申し込んでくる例も多いという。
 今後は公教育との連携も含めて活動を広げたいと語る塚﨑。彼のまいた種(ビーンズ)は、いま、空に向かって伸び続けている。(敬称略)
文/松見敬彦

塚﨑 康弘 YASUHIRO TSUKAZAKI

塚﨑 康弘さん

居場所のなかった高校時代を経て、大学でも学ぶ意味を見いだせず不登校に。同時に、そうした自分と同じような生きづらさを抱える子供たちを救えない教育現場に義憤を抱き、『ビーンズ』を設立。「普通」であることを押し付けない教育を大切に、心のケアからキャリア・自律・進学復学支援までワンストップで行う。1985年生まれ、大分県出身。

●WEBサイト
https://study-support-beans.com/

東京都 株式会社メイツ(進学塾メイツ/個別指導塾WAYS)理想の最適化学習を目指して いま、『教育2・0へ』|疾風の如く|2016年9月号

塾が塾として機能していない。
そんな状態に憤りを感じた。
最高の授業を、最適化された状態で。
教育×ICTに見出した、
新しい教育のあり方へ。
『教育2・0』を創り出す
若者たちの挑戦。

株式会社メイツ(進学塾メイツ/個別指導塾WAYS)

代表取締役社長 遠藤 尚範さん

こんなことが許されるのか


「早稲田ならできるでしょ? じゃあ、あとはよろしく!」。教室長のその言葉に、当時早稲田大学の学生だった遠藤尚範は声を失った。
 アルバイトで勤めはじめた学習塾。教室長は、専門外の教科指導を遠藤に〝丸投げ〟したのだ。その教科に関する指導経験も、研修や指示も受けていない。異を唱える遠藤に、教室長が言い放ったのが、冒頭の言葉だった。
「なんていい加減な!」。その怒りは、決して「教えてもらってないからできません」といったような、イマドキの甘え発想からではない。決して安くない月謝を貰っておきながら、教える技術も、指導者を育てる技術もない。プロ意識というにはほど遠いその塾の対応にガッカリしたのだ。
 現在の業界はずいぶんと改善も進んでいるが、当時はまだ労務上の問題も抱えていた。学生講師にそれだけの負担を強いながら、授業準備だ指導報告だと早出・残業は当たり前、にもかかわらず賃金は支払われない。「こんなことが許されるのか。塾の教育はもっと善くできるはず。俺がどうにかしなくちゃ。理想の塾を創るんだ!」、そんな義憤が遠藤を突き動かす。教材や教育に興味のあった友人・伊藤史弥ら仲間を集めて、いわゆる学生起業家として自分たちの塾を創った。それがメイツのはじまりだ。

また辞めるの?

他塾にも提供をはじめた学習塾管理アプリ『reco』。タブレット1台から導入できる。

もともと、起業家マインドは強かった遠藤。シナリオライターを生業としていた父の影響で、サラリーマンという生き方が「ピンと来なかった」という。「敷かれたレールの上を歩くのではなく、自分でレールを敷きたい。そんな生き方がしたいな」。すでに一六歳の頃にはそう考えていたという。
 やがて起業家を目指し、早稲田の理工学部に進んだが、実験に次ぐ実験であまりにも忙しい学生生活。「これでは起業なんてとてもできないぞ……」、そんな焦りを感じ、三ヶ月で中退。再度受験勉強に挑み、同じ早稲田の商学部に入り直したという変わり種でもある。
 そんなときに出くわしたのが、塾への怒りだ。起業することは決めていたが、なにで起業するかまでは決めていなかった遠藤。この〝事件〟をきっかけに、一気に塾での起業へと心が動く。そして塾を開くために、せっかく入り直した商学部も辞めた。両親は「また辞めるの?」と、半ばあきれ顔で苦笑いしたという。遠藤の性格をよく分かっていたのだろう。

次世代教育『教育2・0』の概念

生徒達はタブレットを中心に学習する。出題や答え合わせなど、紙ベースや手作業で行っていた作業が一気に短縮された。

意気込んではじめた学習塾運営だったが、開業二年を迎えるころ、次第に行き詰まりを感じるようになる。「最高の授業を提供する」という理想にこだわるため、ほぼ一人で三〇人ほどの生徒を個別指導するというフル稼働状態で、そこから先に進めなくなっていたのだ。
 そんなときに出会ったのが教育×ICT(情報通信技術)の概念。タブレットなどの登場に、高い可能性を感じた。そこで遠藤が目指したのが「最適化」である。それまで自分が一人で行ってきた指導を、ICTを使ってシステム化することを考えたのだ。クラウド上にすべての教育コンテンツを整え、例えば生徒の進捗や出欠管理、保護者との連携はもちろん、ビッグデータを蓄積・活用し、一人ひとり異なる演習のセレクト、採点もできる。その結果は再びデータ化され、テスト対策などにも応用される。すなわち塾とその教育、付随する業務のほぼ全体を網羅し、かつ個別に提供できる仕組みを創ったのだ。これにより、従来一対一~一対三で行っていた個別指導を、一対八ほどにまで引き上げても同様の指導成果を維持できるなど、かなりの効率化を実現した。さらに講師の勤務環境も改善できたという驚異的成果を上げている。
 遠藤は言う。「古来、千年前から教育のスタイルは変わっていない。無駄もまだまだ多い。これだけ世の中は進化し続けているのになぜ教育だけが変われない? 最高の学びを、すべて最適化された形で。それが、私たちが提唱する新しい教育のカタチ『教育2・0』です」。
 この「システム」ができれば、自分達がいなくなっても教育は次のステージを行けると語る遠藤。目指すは、自分たちがそのネオ・スタンダードの一里塚になることだ。次代の教育の礎となるのだ。(敬称略)
文/松見敬彦

遠藤 尚範 NAONORI ENDO

遠藤 尚範さん

1989年、東京・中野区生まれ。早稲田大学商学部中退。大学ではじめた塾講師のアルバイトで、ずさんな運営・指導体制への義憤を抱き、自ら塾で起業することを決意。「最高の授業を、生徒一人ひとりに最適化された状態で届ける」ことを理念に、志を共にする大学の仲間たちと起業。ICTを活用し、質の高い学びを効率的に実施するシステム『reco(レコ)』を開発。今年10月からは、同社のみならず、他塾への提供もはじめた。

●WEBサイト
株式会社メイツ 
進学塾メイツ 
個別指導塾WAYS 
学習塾管理アプリ『reco』 

2017年1月の塾歴(じゅくごよみ)

1月8日(日)
東京私塾協同組合 主催
「新年のつどい」
会場:HUB新宿南口店
お問い合わせ:TEL.03-3970-2866
1月13日(木)10:30-14:30
全国学習塾協同組合(AJC)主催
「2017年度 塾教育総合展」
会場:東京国際フォーラム B棟2F ホールE
お問い合わせ:事務局 TEL.03-5996-6565
1月16日(月)10:30-15:00
静岡県私塾連盟 主催
「2017年度 塾フェア 教材教具展」
会場:ホテル コンコルド浜松 2F・雲の間
お問い合わせ:TEL.053-464-3313(担当:桐光学院内)
1月17日(火)10:30-15:30
一般社団法人 岐阜県学習塾協会 主催
「教育フェアぎふ 2016」
会場:岐阜産業会館1F 中展示場
お問い合わせ:TEL.058-213-3155(担当:キタン塾 寺林良)
1月18日(水)10:30-14:30
愛知県私塾協同組合 主催
「第31回 学習塾情報展」
会場:愛知県産業労働センター ウインクあいち
お問い合わせ:TEL.052-323-1638(担当:山田学園 山田真司)
1月19日(木)10:30-14:00
公益社団法人全国学習塾協会 三重協議会 主催
「みえ学習塾フェア」
会場:三重県総合文化センター 第一ギャラリー
お問い合わせ:TEL.0594-84-5453(事務局:学習塾マザーグース内)
1月20日(金)10:00-15:00
NPO学習塾全国連合協議会 西日本ブロック、関西私塾連盟 共催
「教材フェア in 関西」
会場:大阪ビジネスパーク ツイン21 MIDタワー20階
お問い合わせ:TEL.06-6947-5171(担当:共学館義塾 村田芳昭)
1月25日(水)11:00-14:00
千葉学習塾協同組合 主催
「JAC教材教具展 2017」
会場:京葉銀行文化プラザ
お問い合わせ:TEL.0436-25-0162(担当:鈴木ゼミ 鈴木文彦)
1月27日(金)10:30-14:00
NPO法人 学習塾全国連合協議会東日本ブロック 主催
「NPO塾全協 2017年度 教材教具展」
会場:柏商工会議所 4F
お問い合わせ:TEL.048-965-5257または、TEL.04-7131-2263
2月2日(木)10:30-15:30
公益社団法人 全国学習塾協会 栃木県会員協議会 主催
「2017 学習塾フェア 塾に役立つ情報・教材教具・OA機器展」
会場:栃木県立宇都宮産業展示館
お問い合わせ:TEL.028-663-4623(担当:藤田和夫)
2月5日(日)10:00-15:00
宮城県私塾協同組合 主催
「教材教具情報機器展」
会場:アエル
お問い合わせ:TEL.022-366-3735(担当:大沼信雄)

月刊私塾界2017年1月号(通巻429号)

巻頭言

謹賀新年
昨年欧米で大きな出来事があった。ブレグジット(Brexit)とドナルド・トランプ大統領候補の当選だ。両者ともこれまでのグローバリゼーションと一線を画す。
1648年締結ウェストファリア条約により、近代国家観が形成される。その枠組みが、EU成立・拡大、グローバル資本主義などにより越えられるか、と思われた。
しかし、両国のこの事態である。今年はヨーロッパ各国で重要な選挙があり、目が離せない。
英米での先の事態を5年も前に予測していた人物がいる。トルコ出身の経済学者ダニ・ロドリックである。グローバリゼーションのトリレンマとして、ハイパーグローバリゼーション、国民国家、民主政治の道を示す。三つを同時に満たす解はなく、氏の選択は国民国家と民主政治である。それを「賢いグローバリゼーション」と呼ぶ。
翻って我が国の教育界。昨年3月に高大接続システム改革会議「最終報告」が出た。教育再生実行会議第四次提言を受けてのものだ。提言に比べ「最終報告」は大分後退した。いや、現実的となった。それでも4年後の実施に向け課題は山積する。その解決の議論を中央教育審議会で継続中だ。更に骨抜きとなる可能性がある。いやいや、より実際的になる。
ここでも冷静に行く末を予測する方がいる。南風原東大副学長だ。本誌12月号インタビューを再度ご覧あれ。
ともあれ、変化はチャンス。先を正確に読み、的確な対応をされたし。

(如己 一)

目次

  • 18 CatchUp 株式会社ビーシー・イングス
    新生田中学習会の挑戦
  • 20 【新春特別対談】
    小説『みかづき』出版記念
    作家 森 絵都 氏
    ×
    株式会社市進ホールディングス
    代表取締役 下屋 俊裕 氏
  • 27 目次・巻頭言
  • 28 NEWS ARCHIVES
  • 52 千里の道も一歩から ~編集長備忘録~
  • 53【特集】
    編集部が選んだ重大ニュース2016 注目のキーワード2017
  • 62 HOT TOPICS01 第46回青木経営フォーラム in 東京が開催
  • 64 HOT TOPICS02 アクティブ・ラーニング型授業の普及を促進
  • 68 Special Report 私塾界リーダーズフォーラム presents[教育ICTカンファレンス]
  • 82 挑む私学 駒込中学校・高等学校
  • 84 教育サービス業界 企業研究(51) 株式会社エナジード
  • 87 日本教育ペンクラブ・リレー寄稿(276)
  • 88 疾風の如く(90)
    セミナークレスト(兵庫県)
    代表 倉本 鉄平さん
  • 90 好機到来(21) 個別指導山崎学習塾 塾長 山崎 誠さん
  • 92 新米塾長のための「学習塾経営基礎講座」(45)
  • 94 白書界隈徘徊話(22) 西村克之
  • 96 自ら動き出すチームにする方法(28) 中谷彰宏
  • 98 新米塾長のための「部下とサシで行きたいごはん屋さん」(42)
  • 99 芸術見聞録(42)
  • 100 高校生からの子育てハイウェイ(21)
  • 101 クロスワードパズル「塾長の机」
  • 102 為田裕行の「教育ICT行」(22)
  • 104 新・授業改革を目指して(94) 石川幸夫
  • 106 林明夫の「歩きながら考える」(137)
  • 108 咲かせよ桜(26) 小林哲夫
  • 110 未之知也(いまだこれ知らざるなり)(45)
  • 112 論点2017(1) 広域通信制高校問題の先に見えるもの
  • 118 編集後記
  • 120 Book Review
  • 122 塾長のためのガジェット講座

新年あけましておめでとうございます

旧年中は大変お世話になり、誠にありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

アクティブ・ラーニング、高大接続改革、教育ICTといった教育を取り巻く環境の変化は何をもたらすのか。それは、これまで通りに子供たちと向き合い、授業をして、テストで良い点を獲らせる、偏差値に頼るだけの時代は終わりを告げるということです。

そんな時代だからこそ、教育改革の動向をしっかりと見つめながら、常に対応策を練り続け、次々と施策を講じていただくことを、切にお願い申し上げます。そのような機微な対応こそ、民間だからこそできることなのではないでしょうか。

私ども『月刊私塾界』では、今年も誌面やフォーラムを通して、日本の教育の最前線で取り組まれているみなさまに、最先端の情報をお届けするとともに、それぞれの現場の声をしっかりと受け止め、ネットワークをさらに広げ、深めてまいりたいと存じます。今後とも皆さまのご指導を賜りますようお願い申し上げます。

 

学習塾白書2016

最新版「学習塾白書2016」の配本を開始いたしました。

ご注文は下記のリンクよりお申込用紙をダウンロードいただき、FAXにてお願い申し上げます。2017年1月31日までにお申し込みの方に限り、早期申込特別価格もご用意しておりますので、どうぞお早めにご注文下さい。

ごあいさつ

『学習塾白書』は、今回の2016年版で10巻目を迎えることになりました。まず、この場を借りて学習塾を取り巻く教育サービス産業のみなさまに御礼を申し上げるとともに、心より敬意を表します。

この10年、業界にどのような変化があったのか振り返ってみると、通塾率と市場規模はいまとさほど変わらず、ほぼ横這いの状況です。しかしながら、第1巻(『学習塾白書2007−2008』)の発行時に掲載に協力をいただいていた企業444社のうち、100社あまりが倒産、廃業、統合などの理由で掲載を取りやめました。しかし、今回の2016年版のⅡ章にご協力いただいた企業は426社。もちろん、学習塾を主たる事業とする会社が全国に4287社(経済産業省 平成27年度特定サービス産業実態調査報告書の学習塾を運営する会社の単独事業所と本社の合計)存在していることからすれば1割程度の数ではありますが、2015年度の市場規模が1兆3510億円であるうち、売上の上位100社の売上高の合計が7089億円であることからすれば、市場を分析するために有効なデータ足りうることは間違いありません。

また、株式を店頭公開している学習塾企業は直近17社ですが、10年前は20社(グリーンシートを除く)ありました。この間2社(秀文社、成学社)が新たに株式公開を果たし、5社(栄光、ワオ・コーポレーション、アップ、秀文社、全教研)がMBOやTOBにより上場を廃止しています。

本書には、株式公開をしている17社のうち、主たる事業が学習塾ではないエス・サイエンスを除く16社の現状分析をしていますが、16社の売上高合計の前年度比105.43%となり、この5年間で最大の伸び率となりました。また、2015年度決算においては、16社中10社が前年度比増収となっています。

増収の要因は各社によって異なりますが、教室展開やM&A、そして新分野への進出が主たる要因となったことは明かです。

そういったことからも、この学習塾という市場がどのような変化をし、また維持されているのか、ぜひ本書をもって読み解いていただきたいと存じます。

2016年12月吉日
『学習塾白書2016』編集制作委員会

 

>>『学習塾白書2016』のお申込書をダウンロード

白書2016

『学習塾白書2016』

塾業界の市場規模、少子化、教育ICT、幼児教育、学童保育といったキーワードから見えてきた学習塾業界の1年間の動向をまとめた『学習塾白書』。ぜひ1冊お手元に。

過去の学習塾白書はこちら

安心塾バイト認証、運営はじまる 全国学習塾協会が認証基準を公表

公益社団法人 全国学習塾協会(東京・豊島区、安藤大作会長)は26日、安心塾バイト認証の認証機関として、全国の学習塾事業者に向けて認証審査申請の受付と認定を開始することに合わせて、同認証の認証基準を明らかにした。

今回新たにはじまる安心塾バイト認証は、2015年12 月25 日に、厚生労働省が文部科学省と連携して学生アルバイトの多い業界団体に向けて要請した、労働基準関係法令の遵守のほか、シフト設定などの課題解決に向けた自主的な点検の実施にあたってまとめられた、学生アルバイトの労働条件に関する共通課題に関する自主点検表に沿って、同協会が策定した「安心塾バイト認証基準」に適合する、マネジメントシステムのPDCAサイクルが構築されていることを認証する。

ここ数年、学習塾には比較的多くの非正規労働者がアルバイトとして従事しており、学習塾事業者は労働基準関係法令を遵守し、アルバイト等について適正な労働条件を確保することが必要とるものの、求職者に向けた労働契約の締結の際の労働条件の明示や、休憩時間の付与等に関する十分な情報提供、勤務シフトの設定に関する配慮がなされていないケースも、一部の事業者に対して指摘されていた。そのため、同協会では求職者等が安心して就労できる環境を整備しようと、安心塾バイト認証を施行する準備を進めてきた。

安心塾バイトの認証マーク

安心塾バイト認証を取得した事業所には、認証マークが入った認証登録証が発行される。さらに、求職者等が勤務先を選定する際の目安とするため、安心塾バイト認証の取得事業所を同協会のウェブサイトで順次公表していくという。

同協会は、学習塾における労働環境に関する認証をはじめとする、第三者認証制度の着実な実施によって、従業者・求職者のみならず学習塾を利用する子供とその保護者から信頼を得られる安心・安全で成熟した業界の形成に貢献していきたいとしている。

安心塾バイト新規申請審査の流れ

安心塾バイト認証に関する詳細・問い合わせは、同協会のウェブサイトならびに同協会事務局(公益社団法人全国学習塾協会 安心塾バイト認証制度事務局(TEL.03-6915-2293 Email:anshin@jja.or.jp)へ。

たまみずき(東京都)ないなら自分で作ってしまえ|疾風の如く|2016年8月号

障がいを抱える二人の娘。
彼女らには、行く場所がなかった。
娘たちだけではない。
困っている、声なき声が
たくさん埋もれていた。
そうだ、行く場所がないなら、
俺がこの手で作ってやる。

たまみずき(東京都)

代表 櫻井 元さん

行き先のない、放課後の子どもたち

『レット症候群』という神経疾患がある。ほとんどの場合女児に発症するといわれており、自閉傾向とともに知能・言語・運動能力に遅れが見られる病気で、発達障害の一つとして分類されている。しかし、現代の医学ではこれといった治療法も見つかっておらず、対症療法的な対応しかできない。発症率は約一万五千人にひとりという難病だ。
櫻井元(四二)は、双子の女の子の父。名前は珠希(たまき)と瑞希(みずき)という。彼女らが抱えているのが、そんなレット症候群である。たくさんの愛情を注ぎこんで成長を見守ってきたが、その子育て、そして仕事との両立、苦労は想像するに余りある。中でも手を焼いたのは、娘たちが学校に通い始めてからのこと。障がい児向けの放課後デイサービスがないことだった。
現在はある程度環境も整ってきたものの、櫻井がそれを必要としたとき、救いの手を差し伸べる者や制度はほとんどない状況。近隣に一軒だけあったものの、すでに定員いっぱいで受け入れてもらえなかったのである。

自分で作ればいいじゃないか

バザーのチラシづくりも、子どもたちが協力。みんなで作り上げるイベントだ。

途方に暮れた櫻井だが、だまって指をくわえているわけにもいかない。「どこかに受け入れてくれる先はないか」「ないなら、どう対応すればいいのか」、あの手この手で情報を集めていった。そのとき、ふと“降りてきた”アイデアがあった。「というか、自分で作ればいいんじゃないか?」
調べれば調べるほど、絶対的ニーズはあるのに数が少ないことが分かってきた。自分のほかにも、困っている人はたくさんいる。事業モデルも調べてみたが、きちんと運営すれば、ビジネスとして間違いなく成立する。
もともと起業には興味のあった櫻井。まして愛する娘たちのためとあれば、もう動かない理由はない。二〇〇九年九月、障がい児向け放課後デイサービス施設『たまみずき』を立ち上げた。名前は、想いを込めて二人の娘『たまき』と『みずき』から取った。
開園当初は、こうしたサービスの社会的認知が低かったことから、営業にも力を入れた。スクールバスを追いかけて、その場でチラシを配って回ったこともある。しかしそこで聞かれる反応はどれも好意的で、「へえ~、いいじゃない!」という喜びの声が多数を占めた。やはり潜在ニーズは高かったのだ。自らが障がい児の父であるという立場から、その保護者ネットワークも手伝って、口コミでもどんどん評判が広まった。

その生涯を支える居場所を

もちろん、苦労がなかったわけではない。櫻井は語る。
「福祉の世界で働く人たちの多くは、その職務の特殊性から『営業』『営利』という発想があまりないんです。いくら福祉といえ、利用率を上げていかないと事業は継続できません。営業行為に力を割くよりサービスの質を上げるべきという声もありましたが、質を上げるのは当たり前のことで、その上に立って営業視点も持つことが大事です」。
その大切さをスタッフに浸透させるのには時間も手間もかかったし、中には理解しあえず辞めていく人もいたという。しかし、努力の甲斐あって事業は順調に回り、今も拡大中だ。デイサービスの事業所は五か所にまで増え、新しく始めたヘルパー派遣事業も二か所に拠点を広げている。
目下の目標に置いているのは、グループホーム設立だ。もともと娘たちのために立ち上げたこの事業、今度は高校卒業後の居場所も作ってあげたいと考えている。「彼女らのライフステージに合わせて、ずっとその生涯を支えていける体制を作りたいんです」と櫻井は語る。彼女らや彼女らと同じ困難さを抱える子どもたち、そしてその家族のためにも。(敬称略)
文/松見敬彦

櫻井 元 HAJIME SAKURAI

代表 櫻井 元さん

1973年生まれ、静岡県出身。大卒後、エンジニアとして活躍していたが、双子の娘に障がいが発覚。当時は、障がい児が放課後に通える施設が少なく、様々な情報を集めるうち「いっそ、自分で作ろう」と思い立った。社会の潜在ニーズは予想以上に高く、現在は事業所も増え、ヘルパー派遣にも事業を拡大。今後はグループホームの運営なども考えたいと熱く語る。

●WEBサイト
http://tamamizuki.com

探究堂(京都府)学びの楽しさを知る 「オモシロガリヤ」を育てて|疾風の如く|2016年7月号

何もないところから
飛び込んだ教育の世界。
思うこと、感じることを
思ったまま、感じたまま
素直に吸収・表現できるように。
探究から始まる
学びの楽しさを求めて。

探究堂(京都府)

代表 山田 洋文さん

ボランティアでもいいんです!

二〇一一年四月。震災後の混乱もまだ収まらない東京、オルタナティブスクールを運営するNPO法人にやってきた山田洋文(当時三五)は、その門を叩いた。聞けば、ここで教員として働きたいという。
 しかし、前職はシステムエンジニアで、教員としての資質は未知数だ。やる気は感じるが、いかんせん経験や専門性が足りていない。そもそも、採用の予定枠など設けていなかった。戸惑う採用担当者だったが、山田はこう言い切った。「ボランティアでもいいんです!」
 山田がそこまでの熱意を持てたのは、本業の傍らで携わっていた別の教育系NPOのサポート経験だ。熱いやりがいを感じていたものの、活動はあくまで学校の外部協力団体としての立場で、直接子供たちと触れ合えるのはせいぜい週に一回程度。本業だってある。やがて「もっとしっかり教育に携わりたい」という想いが抑えきれなくなり、引き留めも振り切って会社を辞めた。そして何のあてもない状況で、このオルタナティブスクールを訪ねたのだ。担当者もその熱意に押されたのか、まずは山田の言うとおり、ボランティア枠での参画を進めることになった。
 しかし、チャンスが訪れる。経験者や専門性を持つ人材用に確保していた採用枠に、どうも「これ!」という人材が来ない。悩む幹部職員らの会議の場で「山田さんはどうかな? 経験よりもやる気を買って」と推してくれた人がいたのだ。その結果、「夏まで働いてみてダメだったら、再びボランティアスタッフとして活動してもらう」という条件付き採用が決まったのだった。

探究学習を通じて
同調圧力の支配から抜け出す

商店街は「なぜ?」「どうして?」の宝庫だ

その後は持ち前の情熱を武器に、めきめきと頭角を発揮。蝉の声が聞こえるころになってもボランティアへの〝格下げ〟はなく、正規スタッフとして教壇に立ち続けた。
 そんな日々の中、山田の中に新しい情熱が芽生え始める。そのスクールでは教科学習も教えていたが、探究学習にも力を入れていた。正解のない問いや知的好奇心への刺激を中心に、ワークなどもふんだんに盛り込んでいたのだ。
 どうしても、一般的な学校という社会では同調圧力が働きがちだ。人と違う答えを恐れ、自分が思うことや意見を素直に出せる機会に欠ける。しかしそのスクールにおける探究学習の場では、子供たちが「自分の意見は否定されない」ということを知っていた。目が輝いていた。そこに感銘を受けていた山田だったが、その一方で問題意識も抱いた。
 こうしたスクールに通える生徒は、比較的裕福な家庭の子だ。保護者も教育に対する意識や理解が高い。それはそれで大事なことだが、もっと「普通の」子たちも通える場を提供したいと思い始めたのだ。

「オモシロガリヤ」を育てたい

枯れた水汲みポンプから水が出ないのはなぜ? そんな疑問も、すべて学びのきっかけとなる

やがて四年の歳月がたち、意を決した山田。故郷に帰り、自らの手で教育活動を興すことに決めた。最初はスクールの形式も考えたが、人手や予算の問題もある。何より、誰でも通えるようにしたいという想いは譲れない。そこで思いついたのが、塾というスタンスだったのだ。
『探究堂』と名付けられたその学び舎は、かつての経験を活かしながら様々な探究学習の場を設けている。コンセプトは『オモシロガリヤを育てる』だ。
 例えば商店街を練り歩きながら、興味を持ったものを調べてみる、といった学習がある。商店街よりも大型SCに慣れ切った現代の子供たちだけに、その視点も斬新で「なぜ花屋が二軒もあるの?」「露店は商店街のお店と言っていい?」「なぜこの店舗レイアウトなの?」といった疑問が次々出てくる。そうして気になったことには、自分なりに仮説を立てて、実際に店主へ取材し、探究を深める。最終的にはシートにまとめて保護者らの前でプレゼンを行うのだが、いつも子供たちはいきいきしているそうだ。
 今後は哲学講座なども力を入れる予定で、とにかく自立して自分で考える知的情緒豊かな子を育てるのが目標だ。
 目を細めながら山田は言う。「この塾に来ているときだけが面白い・楽しいというんじゃダメで。ここを機に、学校、ひいては学ぶことそのものが楽しいということを分からせてあげたいんです」。(敬称略)
文/松見敬彦

山田 洋文 HIROHUMI YAMADA

代表 山田 洋文さん

1975年生まれ、京都府出身。神戸大学卒。大卒後はシステムエンジニアに従事するが、その傍らで携わった教育系NPOの活動から教育への想いに目覚める。退職後はオルタナティブスクールで4年間教員を務めた。そこでの経験をもとに2015年より独立、郷里の京都へ戻り「学びを面白がる心を育てる」をコンセプトとして『探究堂』を開塾。

●WEBサイト
http://tanqdo.jp/

あずさ塾(京都府)京の町屋に行き交う 「ただいま」と「おかえり」|疾風の如く|2016年5月号

単なる学習塾とも違う。
学童の預かり保育とも違う。
まるで我が家のような空間。
それは「指導」というより、
「子育て」そのものかもしれない。
学童×学習塾が切り拓く、
あたらしい教育のかたち。

あずさ塾(京都府)

代表 飛田 梓さん

家に帰ってくるような塾

町屋を利用した趣きあふれる外観

「ただいまー」「おかえりー」。温かい日常のやりとりが、京都の町屋に響く。
しかしここは、子供たちの家ではない。まごうことなき「学習塾」である。学童保育と塾を融合させた、新しいスタイルの幼児塾『あずさ塾』だ。京町屋を利用したその教室は、おおよそ塾とは思えない、旧き良き京都の家族の風景をそこかしこに漂わせている。そして行き交うあいさつが、その家庭的雰囲気をさらに色濃くする。
あずさ塾のある地域は、京都の中でも比較的教育熱が高いエリアだ。中学受験はもとより、小学校のいわゆる〝お受験〟に挑む家庭も多い。そんな中で「我が子には幼い時期からきちんとした教育を受けさせたい。かといって、まだ年端も行かぬうちからお勉強の詰め込みばかりなのもちょっと……」という家庭から、大きな支持を受けているのだ。

「間に合わない」子供たちの存在

そんな温かな塾を開いたわけを、代表の飛田梓はこう語る。
「開業時は中学受験生をメインに教えていたんです。でもそこに、ある種のジレンマを感じて。もっと低年齢の、子供の根幹や土台作りとなる時期から関わってあげたいと思うようになったのがきっかけですね」(※別教室で中学受験指導は継続中)。
教育の世界を目指したのは、父が塾を始めたことによる。父は会社員として日々を送りながらも、想いあり、副業として開塾。それが、飛田がちょうど大学に入学したころだ。半ば自然発生的に塾を手伝うようになり、次第に教育の面白さに目覚めた。ボランティアとして、小中学校の受験指導や放課後指導にも赴くことも多かったという。
やがて周りが就活を始める頃になっても、あまりそんな気になれず、気持ちは自身も塾をやる方向に動いていた。市の主催する起業家塾に参加して学び、やがて自分の塾を開いたのが『あずさ塾』の始まりだ。
しかし開業したはいいものの、大きな歯がゆさが彼女を襲う。中学受験生を対象に指導していたが、「間に合わない」子たちに出会うことが増えたのだ。幼い時にきちんと思考力や主体性を身につけてこなかったために、どうしても勉強に対して受け身になり、越えられない壁にぶつかってしまう。飛田も生徒ももちろん全力を尽くしたが、今までの〝ツケ〟を返上するのは、物理的・時間的に限界があった。情熱や精神論だけではどうしようもない現実があったのだ。
「もっと幼いころから、自学自習できるようにしてあげていたら……」「生活習慣から深くアプローチできていたら……」。そんな、慙愧とも使命感ともいえるような思いが、学童×学習塾をメインとした『あずさ塾・御所南教室』オープンにつながっていったのである。

安心して中学受験に挑戦できる
家庭的な温かい塾を


教室内は、畳に和風机と、寺子屋を思わせる雰囲気だ

その想いを胸に、女性起業家を支援するビジネスプランコンテストに応募した飛田。ここで入賞すれば、事業資金も援助してもらえる。エントリーテーマは「ワーキングマザーを支援する、長時間預かり型の学習塾」だ。
単なる幼児教育塾にしなかったのは、『小一の壁』問題などに散見される、共働き家庭における教育・子育ての難しさに問題意識を持ったからだ。とにかく、家庭のような温かさの中で、子供たちに必要な力を育んであげたかった。だからこそ、町屋であることに意味があったし、「学童×学習塾」というスタイルにこだわったのである。その姿勢と着眼点が認められ、プランは見事に特別賞を受賞した。
「指導ではなく子育てをしているイメージです」(飛田)と言うように、開塾後も気持ちはいつも生徒と保護者に寄り添っている。「せっかく学童のスタイルを取っているのだから、美術やお習字などの習い事ともコラボしたいですし、共働き家庭でも安心して中学受験にチャレンジできるような体制を作りたいです」と飛田。あの日果たせなかった悔しさは、いま着実に光が当たり始めている。(敬称略)
文/松見敬彦

飛田 梓 AZUSA HIDA

京都市生まれ、京都市育ち。父の設立した学習塾を手伝う中で教育に関心を抱き、自らも塾を設立。中学受験をメインに指導するも、その土台となる幼少期の教育の重要性に目覚め、別教室として「学童×学習塾」スタイルの教室を開塾した。受け身な姿勢をなくし、自学自習できる子供を育てることに使命感を燃やす。

●WEBサイト
http://www.azusajyuku.net/